さて、カール・ロジャーズの人物紹介・後編です。

 

ロジャーズは神学校に通いながら、当時発展しはじめていた心理学精神医学に興味を持ちはじめます。神学校の向かい側にあったコロンビア大学教育学部で多くの科目を履修し、児童相談の分野に転身しました。

その後、ニューヨーク州ロチェスターにある児童相談所で心理職として働き始めます。そこでは非行少年や恵まれない子どもたちの対策を立てたり、治療面接を行ったりしました。「どうしたらうまくいくのか」「どうしたら効果があるか」と試行錯誤する毎日でした。

この児童相談所で、ロジャーズは3つの重要な体験をします。

 

体験1:どんな権威者にも間違いがある

若くてやる気に満ちたロジャーズは、当時有名だったある博士の著作に魅了されていました。

その博士の説に基づいて、放火癖のある若者に一生懸命対応し、原因を解明し、問題を見事に解決!……できたと信じていました。

ところが、その若者は児童相談所から出所したとたん、放火癖を再燃させてしまったのです。

ロジャーズはショックを受けました。そして、著名な学者の説にも間違いはあること、ロジャーズにとっては自分たちがこれから発見すべき新しい知識がまだまだあることを身をもって知りました。

悩み相談に対して「ソープに行け」のひとことで解決しようとするおじさん

 

体験2:押し付けがましい指導は効果がうすい

ロジャーズがいつもお手本にしていた面接記録がありました。

その中でケースワーカー(相談員)はいつも洞察力があり素早く問題の核心を突いているようにみえました。

ところがロジャーズ自身がさまざまな試行錯誤を重ねながら経験を積んだ数年後にこの面接資料を読み返して、ゾッとしました。

このケースワーカーは児童の親に対しまるで法律家のような質問をし、無意識の動機を認めさせ、罪の告白を引き出していたのです。

こういった押し付けがましいアプローチでは表面的な効果しか上がらないことを、ロジャーズはすでに自分自身の体験から学んでいました。

テキトーな理屈で言いくるめる相談員

 

体験3:答えを知っているのはクライアント自身である

乱暴な子供を抱えている、とても聡明な母親と面接をしたことがありました。

問題は明らかに、子供がまだ幼いころ母親が拒否したことにあると、ロジャーズには思えました。しかし彼がいくらそのことを伝えようとしても母親は頑として認めませんでした。

ロジャーズと母親はお互いに面接が失敗だったことを認め、最後に握手をしました。

ところが、面接室から出ていくとき母親が突然振り返って彼にこう言ったのです。

「先生、ここでは大人へのカウンセリングも行っていますか」と。

 

ロジャーズがイエスと答えると、母親は「それではお願いしたい」と言います。

彼女は椅子に座りなおし、結婚生活への絶望感や夫と上手くいっていないことを語り始めました。その話は切実で、今までの無味乾燥な話とはまったく異なるものでした。

乱暴な子供に悩む母親との本当の心理療法はそこから始まり、結果は大成功となりました。

 

ロジャーズはここから大切な事実を学びます。

それは「何が原因か、どの方向に進むべきかなど、答えを知っているのは、(カウンセラーではなく)クライアント自身である」ということでした。

ロジャーズさんのイラスト

いかがでしょうか。

  • 体験1:どんな権威者にも間違いがある
  • 体験2:押し付けがましい指導は効果がうすい
  • 体験3:答えを知っているのはクライアント自身である

ロジャーズは児童相談所でさまざまな問題解決に取り組みながら、このような気づきを重ねていきました。

 

その後のロジャーズ

彼はこのような試行錯誤から得たことを本にまとめ、その後、オハイオ州立大学に教授として迎え入れられます。

その後も大学で教えたり論文や本を出版したりするうちに、彼自身の新しいアプローチはアメリカはもちろん、世界へと普及していきました。

1987年に85歳で亡くなるまで、時には世界各国で講演やワークショップを行いながら、積極的に活動しつづけました。

 

カール・ロジャーズが若いころに大切な気づきを得た3つの体験、いかがでしたでしょうか。

次はいよいよロジャーズが試行錯誤の末に生み出して、カウンセリングやセラピーの方法に新しい風を吹き込んだ(そして今では基礎的な技術となっている)傾聴の方法をご紹介します。

(4)ロジャーズが語る傾聴の方法〜5つの条件とは?