さて、(1)どんな権威者にも間違いがある (2)押し付けがましい指導は効果がうすい (3)答えはクライアント自身が知っている という体験をとおして、ロジャーズが辿り着いたカウンセリング/セラピーとはどんな方法だったのでしょうか。

それまでの「指示的な」(アドバイスをする)方法とは違って、ロジャーズは「非指示的な」(アドバイスをしない)方法を生み出しました。

心理相談の対象者を「患者」ではなく「クライアント(来談者)」と呼ぶようになったのもロジャーズが最初です。

ロジャーズの心理療法を正式には「クライアント中心療法」といいますが(時期によっていくつか呼び方があります)、ここではロジャーズの考え方のエッセンスをなるべく簡単に紹介することが目的なので、あまり細かい議論には立ち入らずに、「傾聴」=「クライアント中心療法」として話を進めます。

傾聴については、ロジャーズ自身が論文や本にまとめているので、それを参照するのが一番分かりやすいと思います。

カール・ロジャーズの本

傾聴(クライアント中心療法)を簡単にいえば、「いくつかの条件がそろえばクライアントの心の状態は自らいい方向に変化していく」という考え方です。

それはどんな条件なのでしょうか。

ここではロジャーズの説明にしたがって「5つの条件」として紹介します。

 

条件1:問題への直面を自覚していること

第一に、クライアントは重要で意味のある問題であると自分が認知している状況に直面している。

「気持ちのコントロールが効かない」「心が混乱している」「結婚生活が壁にぶつかっている」「仕事がうまくいかない」など、何らかの問題に直面していることをクライアント自身が自覚していて、さらにそこから「変わりたい!」と思っていることが第一の条件になります。

…まあ、当たり前といえば当たり前なんですが。

たとえば、いつもイライラして怒りっぽく、人間関係がうまくいかない人がいるとして、「それが問題だ(そして、そこから変わりたい)」と切実に思っているなら、この条件に当てはまります。

でもそのことを本人が問題だと思っていなければ、この条件には当てはまらないということですね。

「問題」という漢字の横をすり抜けていく人

 

条件2:一致(ありのままの自分でいること)

心理療法のための第2の条件は、セラピストが関係の中においてかなりの程度一致していることである。

 

傾聴を行うとき、セラピストは仮面や見せかけではなく、ありのままの自分でいることが必要です。

ここでいう「一致」とは「体験と意識とが正確に合致している」という意味です。セラピスト自身が今この瞬間に感じていることについて正確に理解している必要があります。

 

その意味でいえば、クライアント(話し手)は、問題を抱えている時点で何らかの「不一致」があるんですね。自分の感情への理解がどこかズレていて、自分をありのままに受け入れることができない。だからこそ傷つきやすく、不安定な状態なのです。

それに対してセラピストは、少なくともクライアントと向かい合っている時間だけは、自分自身の感情と理解が一致していることが必要になります。

  • クライアント:一致していない(傷つきやすく、不安定な状態にある)
  • セラピスト:一致している(自分自身を深く受け入れている)

これが傾聴の基本的な関係になります。

 

「一致」という概念は複雑で、私自身、現時点でどこまで正確に理解できているかは微妙なところもあります。とはいえ、ロジャーズの本を読むと、おおよそこんな風に説明してあるということは知っておいていいと思います。

お面がずれてしまっている人

 

条件3:受容=無条件の肯定的配慮

第3の条件は、セラピストがクライアントに対して温かい配慮を体験するということである。

受容とは、セラピスト(聴き手)がクライアント(話し手)を心から温かく受け入れる、そんな態度のことです。

クライアントが「いい状態」のときだけでなく、ネガティブだったり異常だったりするような「わるい状態」のときであっても、セラピストは「私はあなたに関心があるんです。どうぞ聞かせてください」という態度で、クライアントをひとりの人間として温かく受け入れることが必要です。

 

このような「無条件の肯定的配慮」を、ロジャーズは「受容」と読んでいます。

クリスマス・イブに彼の家で浮気相手と鉢合わせした友達の悲しみを自分も同じように受け入れてあげている

 

条件4:共感的理解

心理療法の第4の条件は、セラピストはクライアントが自分の世界を内側から見ているとおりにその世界について正確で共感的な理解を体験している、ということである。

怒り、恐れ、混乱…などクライアントの気持ちや内面的な世界を、セラピストがあたかもそのクライアント自身になったかのように体験するということです。

「あたかも」その人自身になったかのように。つまり、クライアントの怒り、恐れ、混乱を自分自身のものであるかのように感じつつ、だけど、その中に自分自身の怒り、恐れ、混乱は決して巻き込ませない。…それがロジャーズの言う「共感」であり、これこそセラピーの本質的なものであると語っています。

このとき、セラピストはクライアントが述べていることについて、「いい」「わるい」とか「正しい」「間違っている」などのジャッジを下すことはありません。

クライアントの「気持ち」や「語っていること」に疑いをはさまず、そのまま理解することが大切になります。

また、話を聞いているときに受け答えする声の調子も、クライアントの気持ちを十分に共有していることが必要です。

「東大、ハーバード、弁護士」というエリート女性に対して「1mmも共感できない」とぼやく人

 

条件5:「一致」「受容」「共感」がクライアントに伝わること

心理療法における意味ある学習のための第5の条件は、セラピストの一致と受容と共感を、クライアントがある程度体験もしくは知覚する、ということである。

セラピストが以上の2〜4の条件(一致、受容、共感)を実践できていることがクライアントにも伝わると、クライアントの中に変化が起こります。

つまり、クライアント(話し手)の側からすれば、セラピスト(聴き手)が自分のことを「うそいつわりない態度で」(一致)、「無条件に温かく受け入れてくれ」(受容)、「自分の内面的な世界をそのまま理解してくれる」(共感)ことが分かったときに、変化がおこるということです。

その変化とは、クライアントが自分や他人に感じている硬直した見方が柔軟になったり現実を素直に受け入れられるようになったりする、たとえばそのような変化です。

 

まとめ:ロジャーズが語る傾聴の5つの条件

いかがでしょうか。5つの条件がそろうときに、クライアントに変化が訪れる。ロジャーズによれば、それこそが傾聴の方法なのです。

  1. 問題への直面(クライアントが深刻で意味深い問題に直面している自分を認知しているとき)
  2. 一致(セラピストがその関係の中で一致した人間であり、ありのままの自分でいることができるとき)
  3. 受容(セラピストがクライアントに無条件の肯定的配慮を感じているとき)
  4. 共感(セラピストがクライアントの私的な世界に正確で共感的な理解を体験しており、その理解を伝えているとき)
  5. クライアントがセラピストの一致と受容と共感を、ある程度体験しているとき

 

ロジャーズの傾聴(クライアント中心療法)が、「悩みを話すとスッキリする」という単なるカタルシスだけではないこと。また、悩みに対してアドバイスするのではないこと。そして、傾聴とはクライアント自身が本来持っている変化する力を引き出す方法だということが、皆さんに伝われば幸いです。

(5)ロジャーズが語る「自分自身の声を聴くことの大切さ」