傾聴しながらガイドする「動機づけ面接」(MI)3つの特徴
先日、私は行政機関主催の動機づけ面接(MI=Motivational Interviewing)講習会にファシリテーターとして参加しました。
この場合の「ファシリテーター」は、グループワークに立ち会ったりデモセッションを演じたりするお手伝い係のこと。
医療や保健分野の参加者にまじり、私も大いに勉強にもなりました。
さて、このMIとは何なのか。私はこんなイメージで捉えています。
MIとは「傾聴しながらガイドして、相手のやる気を引き出す方法」だと。
傾聴が「寄り添って一緒に歩く」イメージだとすると、MIは「地図を片手に、寄り添いながら一緒に歩く」イメージかもしれません。
○傾聴=寄り添う
○MI=「寄り添いながらガイドする」
では、MIを知らない人にもイメージが湧くように、私が考える「MIの3つの特徴」を書いてみます。
特徴1:人は押し付けられるのではなく、自分の言葉ではじめて変化できる(基本ビジョン)
みなさんも子供のころに経験ありませんか。
「勉強しなきゃ! でもなかなかスタートできない」とモヤモヤしているときに、「勉強しなさい」と強く言われて、逆にやる気をなくしてしまったことが。
親とか先生とかお医者さんとか、立場が上の人がよかれと思って「○○しなさい」(命令)、「○○したほうがいいよ」(アドバイス)、「○○しないと困ったことになるよ」(脅し)をすることはよくあります。
でも、本人が受け入れる気持ちになってないときに一方的に情報を与えても、効果はないんですよね。
人は押し付けられるのではなく、自分の言葉ではじめて変化できるからです。
このことが人間の変化についての、MIの基本的なビジョンとなっています。
MIの始まりは 1980年ごろに遡ります。アルコール依存治療を専門とするお医者さんが、あることに気づきました。
同じマニュアルの治療法を行っていても、担当するカウンセラーによって治療の効果が大きく違うのです。
そこでそれぞれのカウンセラーの対話の仕方を分析したところ、「○○しなさい」と押し付けるのではなく、相手の話を丁寧に聴く傾聴的なカウンセラーのほうが治療効果があがることが分かりました。
そこでこのお医者さんは、どんな対話なら本人がより変化できるか(アルコール依存から回復できるか)の方法を研究するようになりました。
その結果見つけ出したのが、「傾聴しながらガイドする」MIの方法です。
といっても、MIの方法は完成されたものではなく、30年以上たった現在もさまざまなデータをもとに改良されつづけています。
日本では今年に入り(2019年)最新版『動機づけ面接』<第3版> の邦訳が出版されました。
MIは現在、医療や司法、学校や家庭などの教育、キャリア支援など様々な分野で世界的に普及してきています。
○特徴2:相手を受け入れ、話を聴く(傾聴)
MIのベースとなる部分は、傾聴(ロジャーズの来談者中心療法)と重なります。
カウンセラーが答えを教えるのではなく、相手を受け入れ、丁寧に話を聴く。
相手が間違ったことを言っても、直接その間違いを指摘して正すことはありません。
そうして、相手と信頼関係を作りながら、相手の考え、気持ち、その底にある価値観を確認していきます。
例えば、「勉強になかなか取り掛かれない。将来が不安。勉強したほうがいいことは分かるんだけど…」という人がいるとします。
そんなときは、まずよく聞いて受け入れます。そして、中身を明確化します。
同じ「将来が不安」という言葉でも、その人によって思いはさまざまです。
将来が不安というのは「安定した職業つけないかもしれないこと」なのか、「自分の夢が実現できないこと」なのか「家族が持てないこと」なのか、それとももっと違う意味なのかを確認します。
そのとき、なるべく質問形式にしないように工夫します。
質問攻めの印象にならないように、相手の言葉を伝え返す方法をとります。
「相手の言葉の意味を確認するときに違ってたらどうするの?」と思う人もいらっしゃるかもしれませんが、そこは問題ありません。
…というより、それがまさに面白いところで、人間には「間違っていると正したくなる習性」があるので、こんどはその人自身が、本当はどう思っているのかを話してくれるようになります。(もちろんそのスキルの修得には練習が必要ですが)
そうやって、相手の気持ちや考えを一緒に確認していくのです。
○特徴3:変わりたい気持ちをサポートする(目的志向)
MIが効果を発揮するのは、「変わりたい。でも変わりたくない」という天秤状態のときです。
- 「禁煙するほうがいいと思う。でもできる自信がない」
- 「新しいことに挑戦したい。でも不安がある」
- 「ダイエットしたい。でも面倒くさくなって続かない」
…などなど。
伝統的な傾聴と違うのは、それが「変わりたい気持ち」なのか「変わりたくない方の気持ち」なのかを、カウンセラーが見極めながら、相手を「変わりたい」方へとガイドするところです。
たとえば、試験勉強が手に付かない高校生に話を聴くと、こんな内容だとします。
- 勉強する方がいいことは分かっている。
- でもなかなか取り掛かれない。
- いちど頑張って世界史が90点だったときはとても誇らしかった。
- だけど、試験前はやることが多すぎるのでどこから取り掛かればいいのかわからない。
- 直前になればなるほど焦ってしまう。
ここには「勉強したい気持ち」と「勉強したくない」気持ちが隠れています。
カウンセラーはその両方の気持ちを判断します。
- 勉強する方がいいことは分かっている。
- でもなかなか取り掛かれない。
- いちど頑張って世界史が90点だったときはとても誇らしかった。
- だけど、試験前はやることが多すぎるのでどこから取り掛かればいいのかわからない。
- 直前になればなるほど焦ってしまう。
そして、これをそのまま伝え返すのではなく、少し工夫します。たとえばこんなふうに…
(伝え返しの例)
「試験勉強になかなか取り掛かれなくて困ってるんですね。一方で、勉強する方がいいことはわかってるし、頑張って90点とって誇らしかった体験もある。そして、できれば焦らず落ち着いて準備したいと思ってる…」
どうでしょうか。
「変わりたくない気持ち」は最初にひとつだけ触れ、「変わりたい気持ち」はその後に2つ伝え返しています。さらに「焦ってしまう」ネガティブなことについては、その裏返しとして「焦らず落ち着いて準備したい」というポジティブな気持ちに変換して伝え返しています。
傾聴をベースとしながら、このような工夫をいれることで、「変わりたい」方の気持ちをサポートしガイドするのが、MIの特徴なのです。
まとめ
以上、MIの特徴を3つにまとめてみました。
- 人は押し付けられるのではなく、自分の言葉ではじめて変化できる(基本ビジョン)
- 相手を受け入れ、話を聴く(傾聴)
- 変わりたい気持ちをサポートする(目的志向)
相手を受け入れ傾聴しながら、「変わりたい」気持ちをサポートしガイドするMIの方法。いかがでしょうか。
仕事や家庭で、「いくら教えてもアドバイスしても相手が変わってくれない」とお悩みの方は、ぜひ参考になさってください。