トーマス・ゴードンによる〜傾聴にならない12の障害物
先日の投稿「山びこ」だけじゃ物足りない。傾聴おける「伝え返し」の技法(2)は、なかなか好評でした。
あるお医者さんからは「4コマ漫画のやまびこ君をMI研修に使いたい」という嬉しいコメントもいただきました。もちろん大歓迎です!
このホームページが、傾聴・MI・REBTなどの役に立つ技法の「面白い入口」になれば幸いです。
また、行政機関に勤める支援職の方からは、記事内容に関連して「トーマス・ゴードンによる12の障害物」の記事も読んでみたいと、リクエストをいただきました。
そんな経緯もあり、ゴードンがリストアップした「12の障害物」について今回、記事にしてみます。
○トーマス・ゴードンと「積極的傾聴」
カール・ロジャーズの弟子トーマス・ゴードンは、「積極的傾聴」(active listening)という言葉の提唱者でもあります。
私たちにとって日常的な「聞く」イメージは、こちらが黙って相手の話を聞くだけかもしれません。
それに対してロジャーズが提唱しカウンセリングの基礎技術となっている「傾聴」では、単に黙っているのではなく、相手の発言に対して積極的な伝え返しを行います。
この聴き方をロジャーズは「耳を傾ける/傾聴(listen/listening)」と表現しましたが、ゴードンは「積極的傾聴(Active Listening)」と呼んでその意味をさらに明確化しました。
(参考記事)傾聴の元祖!カール・ロジャーズ入門 (7)おまけ:ロジャーズは「傾聴」という言葉をどう使っているか?
○トーマス・ゴードンによる12の障害物
ゴードンは私たちが会話のなかで相手に反応するときに、この意味での「積極的傾聴」とはいえない「12の障害物」(うまくいかないフィードバックの仕方)をリストアップしました。
オリジナルの拙い漫画ではありますが(笑)もういちど御覧ください。
「英語なんて勉強して何になる」と不満を言う子供に対して、母親は「小遣い半分にする」と脅迫したり、「好きな歌詞を覚えてみたら」とアドバイスしたり、「ママ(私)を困らせようとしている」と解釈や分析を行ったりしています。
でもこれはうまくいかない反応の例になります。
「12種類の障害物」は、ざっと以下のとおりです。
1.命令や指示をする(Ordering, directing, or commanding)
(例)「英語なんて勉強して何になるの」に対して「とにかく毎日2時間やりなさい!」
2.警告する、用心を促す、脅かす(Warning, cautioning, or threatening)
(例)「ちゃんとやらなきゃ小遣い半分よ!」
3.助言を与える、提案をする、解決策を供給する(Giving advice, making suggestions, or providing solutions)
(例)「まずは好きな歌詞を覚えてみたら?」
※「アドバイスや解決策の提案はいいことでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、提案が効力を発揮するときもあります。でもここでゴードンが想定しているのは、話す側か聞く側のどちらかが「反抗・抵抗・いらだちなどを感じているとき」だとお考えください。そんなときは、アドバイスも逆効果になりがちなのです。
4.論理・議論・説教で説得する(Persuading with logic, arguing, or lecturing)
(例)「あと8ページでしょ。1ページ15分でやれば2時間で終わるわよ」
5.すべきことを伝える、道徳的に教化する(Telling people what they should do; moralizing)
(例)「大人になったら勉強したくても時間がないのよ。勉強できるのは幸せなんだから」
6.反対する、判断する、批判する、非難する(Disagreeing, judging, criticizing, or blaming)
(例)「高校に通わせてもらっているんだから、やるべきことをやらないのは、間違っているでしょ」
7.同意する、承認する、褒める(Agreeing, approving, or praising)
(例)「やればきっとできるって。本気出せばできる子なんだから」
※もちろん同意したり褒めたりすることが効果を発揮するケースもありますが、この場合は、相手がネガティブな状態のときに、一方的に賞賛したり、ご機嫌をとろうとしてもうまくいかないということ。
また、「褒めること」(高く評価する)は「批判すること」(低く評価すること)の裏返しでもあります。傾聴における「伝え返し」では、聞き手の評価を加えずに相手の気持ちや考えを誠実に確認します。
8.恥辱を与える、あざける、レッテルを貼る(Shaming, ridiculing, or labeling)
(例)「英語もやらないなら、幼稚園からやりなおしたら」
9.解釈する、分析する(Interpreting or analyzing)
(例)「またそーやってママを困らせようとする…」
※「相手が何を思い、考えているのか」に積極的な興味をもつこと自体は傾聴の基本です。でもそれを本人に丁寧に確認することが必要。決めつけになってはいけません。
10. 安心させる、同情する、慰める(Reassuring, sympathizing, or consoling)
(例)「英語の勉強なんてかわいそうねー。同情するわ〜」
11. 質問する、探りを入れる(Questioning, or probing)
(例)「なんでそんな風に言うわけ? 何かあったの?」
※もちろん質問は使い方しだいで効果を発揮することもあります。ここでは「尋問」になってはいけないということ。
12. 撤回する、逸らす、機嫌をとる、話題を変える
(例)「それはそうと、今日のご飯は何がいい?」
※話題を変えるのもひとつの手かもしれませんが、「傾聴」とは別物です。
○「積極的傾聴」(active listening)の理解のために
以上の12のリストは、ゴードンによる、話す側か聞く側が反抗や抵抗やいらだちを感じているときにうまくいかないだろうフィードバックの仕方(12の障害物)でした。
くり返しになりますが、もちろん場合によっては、適切な質問をしたり、相手のいいところを褒めたりすることで、いい関係を構築し、相手のやる気を引き出しこともできます。
何が「(積極的)傾聴」で、何がそれ以外のやり方かを確認するうえで役立てていただければ幸いです。
(出典)
- 『動機づけ面接 第3版 上』(ミラー&ロルニック著、原井宏明監訳/星和書店)
- 『ゴードン博士の人間関係をよくする本 自分を活かす 相手を活かす』(トーマス・ゴードン著、近藤千恵訳/大和書房)
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