「氷山」と「天秤」:傾聴しながらガイドする〜動機づけ面接(MI)を紹介しました

先日、「こころの学び会」というカウンセリング勉強会で、MIの紹介を行いました。

2時間ほどの限られた時間のなかで、私なりにエッセンスを伝えることができて好評だったので、その内容をざっくりとシェアします。

イラストなどは、いままでのブログ記事から抜き出しました。

○動機づけ面接(MI)の概要

4コマ漫画「MI(エムアイ)」

動機づけ面接(Motivational Interviewing/ MI)とは「傾聴しながらガイドする」対話スキル。クライエントを温かく受け入れる傾聴的な側面と、目標に向けての変化をサポートするガイド的な側面をあわせ持っています。

とはいっても、「傾聴にプラスαを上乗せしよう」として考え出されたわけではありません。

もともとは1990年代に「アルコール問題をもつ人へのカウンセリングの効果が、カウンセラーによって大きく違っていたこと」への気付きから始まりました。

効果的なカウンセラーの面接スタイルを分析したところ、傾聴的な部分と目標をサポートする部分を備えていることが分かりました。その分析を元にMIが開発され、今日までさらに発展してきています。

MIは特定の心理療法ではなく面接スタイルなので、認知行動療法などと組み合わせて使うことができます。

現在、以下のような分野で効果が研究され、認められています。

アルコール/薬物/喫煙/病的ギャンブル/ダイエット/運動/治療アドヒアランス(薬を続けて飲むこと)/育児/子供や青少年の行動/DV・家族関係/暴力・司法関連 など

私自身、禁煙に携わる先生方や司法関係の人たちのお話をきいたり、また海外の心理職関係の人と話したりしても、MIの評判はとてもよく、世界的に普及してきているコミュニケーション技法だという実感をもっています。

○MIのイメージ:「氷山」と「天秤」

今回の勉強会では、MIの2つの側面に注目しました。それをイメージで表すと「氷山」「天秤」になります。

イラスト「氷山」

 

○MIの傾聴的な側面:「氷山」のイメージ

MIのひとつめのイメージは「氷山」。傾聴的な側面です。

イラスト「氷山」

傾聴が「氷山」とはどういうことでしょう?

ここでは「正確な共感」「複雑な聞き返し」がキーワードとなります。

○正確な共感とは?

心理学用語の「共感」は、日常語の「共感」とは少し意味が違います。

次の問題を見てください。

(問題)

大統領は「国境に壁を作るべきなのに、反対が多くて実現できない」と、イライラ、怒っている様子です。

トランプ大統領が怒っている

このとき「正確な共感」とは、次のどれになるでしょうか?

(1)「そうですよね〜」といって、自分も一緒に怒る。

一緒に怒る

(2)「まずは冷静に」とアドバイスする。

アドバイスする。

(3)「私にも同じような経験…自分の提案を反対されて困ったことがあります」と共通点を見つけて伝える。

自分のことを話す

(4)1〜3のどれでもない。

…さて、いかがでしょう?

答えは(4)1〜3のどれでもない。になります。

「正確な共感」は(1)のように賛成や反対を示して相手を評価することではありません。これは、相手の感情に巻き込まれてしまうことにもつながります。

また(2)のようにアドバイスすることや(3)のように自分と共通の経験を見つけることでもありません。これらも(方法として必ずしもまちがっているわけではありませんが)「共感」とは別物です。

では「正確な共感」とは何か。それは「相手の目を通して世界を見ようとすること」です。

あるいは傾聴の元祖カール・ロジャーズの言葉を借りれば「クライアントの内的世界を、あたかもカウンセラー自身のものであるかのように感じながら、しかし『あたかも』という性質を決して失わずに感じること」です。

その試みこそが「正確な共感」になります。

どんな景色が見えているか?

(関連記事)MIと傾聴のスピリット:心理学用語の「共感」とは?

○「複雑な聞き返し」とは?

「正確な共感」を実現するための技法、それが「複雑な聞き返し」です。

4コママンガ「山びこくん」

世間では「傾聴=オウム返し」と言われることもありますが、この漫画の「山びこくん」のように相手の言葉をただそのまま繰り返すだけでは、物足りませんね。何が足りないのでしょうか。

○トーマス・ゴードンによる「コミュニケーションのプロセス」

カール・ロジャーズの弟子トーマス・ゴードンは、相手の言葉を理解しようとするコミュニケーションにおいて、3段階のミスが起こりうることを指摘しました。

ゴードンの図1

(1)話し手が自分の考えを言語化するときのミス

図の左側、話し手の「考え→コトバ」の部分です。

自分の考えや感情をうまく言語化できないことってありますよね。

  • どう表現すればいいかわからない。
  • (本当は寂しいのに、自分では気づかず)怒りとして表現してしまう。
  • 恥ずかしいからごまかして表現してしまう。

などなど。

(2)話し手の言葉を聞き手が間違って受け取ってしまうミス

図の上部、「コトバ→コトバ」の部分です。

  • 聞き間違い
  • 聞き逃し

など。

(3)話し手の言葉の意味を聞き手が間違って解釈してしまうミス

(1)が話し手によるアウトプットのミスだとすれば、こちらは聞き手によるインプットのミスになります。

話し手が「もっと社交的になりたいです」と言うとき、その意味する内容はいろいろ考えられます。

  • 「もっと友人がほしい」
  • 「初対面の人と話すとき緊張してしまう。なんとかしたい」
  • 「人気者になりたい。みんなの注目を浴びたい」
  • 「飲み会やイベントにもっと誘ってほしい」

つまり、話し手がどんな意味でそう発言したのかを理解することが必要になります。

○傾聴における「伝え返し」の本質

さて、この3種類のミスのなかで、単純な「くり返し」(オウム返し)によって防ぐことができるのは、実は(2)のミスだけです。

さきほどのマンガの「山びこくん」のようにオウム返しをしていても、(1)や(3)のミスの可能性は残ったままです。

ゴードンの図3

だからこそ、(4)の確認が必要になります。

この理解の確認が、傾聴における「伝え返し」の本質です。

○氷山型の伝え返し(複雑な聞き返し)

氷山のイラスト

話し手が直接口にする言葉は、氷山にたとえると水面上に見えている部分に過ぎません。

その一方、水面下の見えない部分(話し手の思い、感情、価値観…)は何だろうかと推測し、それを話し手自身に確認することこそが大切です。

この「複雑な聞き返し=氷山型の聞き返し」でクライエント自身の価値観を掘り下げてみる。そこに、クライエント自身の「変わりたい」というエネルギーが潜んでいるのです。

(関連記事)「山びこ」だけじゃ物足りない。傾聴における「伝え返し」の技法(2)

○MIの目的指向的な側面:「天秤」のイメージ

MIが効果を発揮するのは、「変わりたい。でも変わりたくない」という天秤状態のときです。

  • 「禁煙するほうがいいと思う。でもできる自信がない」
  • 「新しいことに挑戦したい。でも不安がある」
  • 「ダイエットしたい。でも面倒くさくなって続かない」

…などなど。

伝統的な傾聴と違うのは、それが「変わりたい気持ち」なのか「変わりたくない方の気持ち」なのかを、カウンセラーが見極めながら、相手を「変わりたい」方へとガイドするところです。

  • チェンジトーク:特定の変化のゴールに向かう動きを良しとするクライエントの言葉
  • 維持トーク:変化のゴールへの動きよりも現状を良しとするクライエントの言葉。

たとえば、試験勉強が手に付かない高校生に話を聴くと、こんな内容だとします。

「勉強する方がいいことは分かっている。」

「でもなかなか取り掛かれない。」

「いちど頑張って世界史が90点だったときはとても誇らしかった。」

「だけど、試験前はやることが多すぎるのでどこから取り掛かればいいのかわからない。」

「直前になればなるほど焦ってしまう。」

イラスト「勉強しなさいと言われてやる気をなくす」

ここには「勉強したい気持ち」と「勉強したくない」気持ちが隠れています。

カウンセラーはその両方の気持ちを判断します。

  • 勉強する方がいいことは分かっている。(チェンジトーク)
  • でもなかなか取り掛かれない。(維持トーク)
  • いちど頑張って世界史が90点だったときはとても誇らしかった。(チェンジトーク)
  • だけど、試験前はやることが多すぎるのでどこから取り掛かればいいのかわからない。(維持トーク)
  • 直前になればなるほど焦ってしまう。(維持トーク)

そして、これをそのまま伝え返すのではなく、少し工夫します。たとえばこんなふうに…

(伝え返し、要約の例)

「試験勉強になかなか取り掛かれなくて困ってるんですね。一方で、勉強する方がいいことはわかってるし、頑張って90点とって誇らしかった体験もある。そして、できれば焦らず落ち着いて準備したいと思ってる…」

どうでしょうか。

「変わりたくない気持ち」は最初にひとつだけ触れ、「変わりたい気持ち」はその後に2つ伝え返しています。さらに「焦ってしまう」ネガティブなことについては、その裏返しとして「焦らず落ち着いて準備したい」というポジティブな気持ちに変換して伝え返しています。

傾聴をベースとしながら、このような工夫をいれることで、「変わりたい」方の気持ちをサポートしガイドするのが、MIの特徴です。

○まとめ:氷山と天秤

ここでは「傾聴しながらガイドする」MIの特徴を「氷山」と「天秤」の2つのイメージでまとめてみました。

・氷山のイメージ

「複雑な聞き返し」でクライエント自身の価値観を掘り下げ「正確な共感」を実現する。

氷山のイラスト。その人が「大切にしていること」は水面下に隠れている。

・天秤のイメージ

天秤状態のイラスト

「変わりたい。だけど、変わりたくない」の状態から「変わりたい気持ち」に焦点をあて、それを強化していく。

そのときに、「変わりたい気持ち」のエネルギーの元となるのは、「氷山」でいえば水面下の部分=その人自身が大切にしていること・価値観です。

その水面下の部分にアプローチしながら、「変わりたい気持ち」を高めていくコミュニケーション技法がMIなのです。

 

 

 


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