「死人テスト」とは〜「○○を気にしない」も「禁煙する」も行動じゃない?
日常生活でも「行動目標」を立てることがありますよね。「毎日10分エクササイズする」とか「今年こそ○○に旅行する」とか。
カウンセリングのセッションでもしばしば、クライエント(話し手、来談者)がどんな行動に取り掛かるかがテーマになります。
「家の掃除ができない」という相談なら「まず玄関の靴を揃える」も「行動」ですね。
ところが、研修の場でスーパーバイザーの先生から「それは行動?」と訊かれることがあります。
たとえば、「悪口を言われても怒らない」は行動でしょうか? 「禁煙する」は行動でしょうか?
面白いことに、ある観点からすると、これは「行動」ではないのです。
○行動分析学における「行動」とは?
人間や動物の行動を分析する、その名もズバリ「行動分析学」という学問があります。ここで研究対象となる「行動」の定義が面白いんです。「行動」って何だと思いますか?
「行動とは、死人にはできない活動のことである」
何じゃそれ!…と思いません?(笑)
これは行動分析学を始めた心理学者B.F.スキナー(1904〜1990)の弟子であるオージャン・リンズレーが1960年代に発表した定義です。
具体的には、以下の3つのことは「行動」とはみなしません。
- 「……される」という「受け身」(例)「車にひかれる」「上司にほめられる」
- 「……しない」という「否定」 (例)「怒らない」「会議の間中1度も発言しない」
- 「……している」という「状態」(例)「静かにしている」「崖から落ちる」
行動は外界に対して生体が働きかける機能であり、能動的に何かを行うことなので、「死人にはできない活動かどうか」という一風変わった基準があるのですね。
この基準を用いて、それが行動かどうかを判断することは「死人テスト」(Dead-man test)と呼ばれます。
○「死人テスト」を活用しよう
さて、この定義「行動とは、死人にはできない活動のことである」が、カウンセリングやセルフヘルプの場面でもなかなか有効なのです。
たとえば、何か心配事があって仕事に集中できないとします。
そのとき「○○のことを気にしない」は行動目標とはいえません。「気にしない」は死人でもできることですから。
では、このとき目標となる行動はどんなことでしょう?
たとえば、「気になることをノートに書き出す」。これは行動です。
「悪口言われても怒らない」…これは行動ではありません。
「悪口言われたら、いったんその場から離れて歌を歌う」…これは行動ですね。
「仕事先から褒められる」…これも行動ではありません。(「…される」という「受け身」)
だったら、それが行動になるように言い換えて、「仕事先の人には元気に挨拶する」はどうでしょう。
「タバコを吸わない」ではなくて、「タバコが吸いたくなったら、深呼吸する」など、行動に置き換えてみましょう。
自分はどんな具体的な「行動」をとるのか? 目標行動を明らかにすることで、問題解決が進む場合がよくあります。ぜひお試しください。
(参考)『行動分析学入門』(杉山尚子著/集英社新書)