「傾聴」とはなにか?

最近「傾聴」の講座に参加してきました。「傾聴」(けいちょう、Active Listening)とは、相手に寄り添って、感情・欲求・葛藤など内面の世界観を理解する方法のことで、アメリカの心理学者カール・ロジャース(1902~1987)の「来談者中心療法(Client-Centerd Therapy)」がもとになっています。

 

※最近JKDA(日本傾聴能力開発協会)を立ち上げた岩松正史氏の著書

さて、この傾聴講座はいい意味でわたしの予想を裏切ってくれました。わたしが事前に抱いていた「傾聴」のイメージは次のようなものです。

  • 相手の話をよく聴き、その人の存在を肯定的に受入れる。
  • 話を遮ったりアドバイスしたりせず、聞き手に徹する。
  • 「うなずき」「あいづち」「くりかえし」などを用いて相手に寄り添う。

このイメージが間違いというわけではありません。しかしこれだけではいちばん中心の部分がぼやけたままなのです。

◎「傾聴」の核心とは?

議論においても、コミュニケーションにおいても、相手の話の内容を理解することは非常に大切です。しかし「話の内容を理解する」ことと「傾聴」はまったく別です。

話を内容を正確に理解すること。これは「事実・論理」の世界に属します。「日本は消費税を増税すべきだ(すべきでない)」という主張の構造を理解することや、「昨日○○さんが……と言ってきて、……したら、……になった」という日常会話の内容も「事実・論理」に属します。このような話の内容を理解することは、もちろん大切です。ところが傾聴は、この意味での聞き取りではありません。

傾聴のターゲットとなるのは話題そのものではなく、「話題に対して、いま目の前にいる相手がどんな思いでいるか」という「感情・心理」になります。上のイラストでいえば、 矢印の部分です。もちろんこの「思い」は目に見えません。だからこそ、それを理解するための技術が必要になります。それが「傾聴」という方法です。

◎「傾聴」のメリット

カウンセリングの基礎技術でもある傾聴にはたくさんのメリットがあります。ここでは1つだけ紹介します。それは「今まで話が合わず苦手だと思っていた相手が、苦手でなくなる」というメリットです。

なぜそうなるのでしょう?

相手と話が合わない理由は何か? それは話の内容への興味の度合いが相手と自分で異なるからです。

たとえば、相手はゴルフが大好きでゴルフについて話したいのに、自分はまったく興味がない場合。また興味の対象は同じでも、それに対する意見が対立している場合もあります。たとえば「小学校で英語を教えること」について自分は反対なのに、相手は賛成だという場合。
こんな場合には、相手と話を続けるのが退屈だったり苦痛だったりします。一刻も早くその場から解放されたいと思うことも多いのではないでしょうか。

しかし、よく原因を考えてみましょう。相手と話が合わないのは、実は「話題」への興味や賛否をむりやり合わせようとするからなのです。興味や賛否が合えば話は弾むけれど、合わない場合はその場が苦痛になったり、ケンカになったりします。

傾聴のアプローチは、「話題への興味・賛同」とは本質的に異なります。「話題そのもの」ではなく、その話題に対して「いま相手がどんな思いを感じているか」を理解するのです。

たとえばゴルフの例だと、自分がゴルフに興味があるかどうかは関係ありません。「ゴルフを好きだと思う○○さんの、その気持ち」を知ることが目的になります。そのために、前述のとおり「うなずき」「あいづち」「くりかえし」などを行いますが、それを形だけ行うのではなく、最終的に相手の気持ちを理解・共有することが大切なのは言うまでもありません。そして「いま自分の気持ちを理解してもらった」と相手が感じてくれれば、お互いの心理的な距離感が一歩近づくことになります。

これは話題(小学校で英語を教えることetc.)についての賛否が分かれる場合も同じです。相手が賛成(反対)であることにジャッジを下すのではなく、相手がどんな気持ちで賛成(反対)しているのかを理解することで、相手との距離感を多少なりとも縮めることができます。

傾聴にとっては、話題はあくまで(1)「目の前の相手」をとりまく(2)「サンプル」にすぎません。(2)に対して無理やり話を合わせるのではなく、(1)→(2)への矢印に焦点を合わせる技術が傾聴です。

◎傾聴と質問

傾聴においても、質問は有用な技術です。ただし、「うなずき」「あいづち」「くりかえし」などの基本技術より、難易度が高くなります。

  • (A)ことがら(事実・論理)
  • (B)きもち(感情・心理)

傾聴ではつねに(B)が問題になります。ある話題(A)について相手がどう思っているか(B)は、しばしばデリケートだったり、エキサイトしやすい問題だったりします。また気持ちは目に見えないので、相手本人も自分自身の気持ちを正確に理解しているとはかぎりません。たとえば悩みを抱えた人に対して、「本当はどう思ってるの?」とか「なぜそんなことをしたの?」とストレートに質問することが効果的とはかぎりません。逆効果になる場合もあります。

◎まとめ

  • 傾聴とは、話の内容を理解することではなく、相手がその内容に対して抱いている気持ちを理解すること。
  • 傾聴のメリットのひとつとして、「今まで苦手だった相手との会話が、今までより苦手でなくなること」が挙げられる。
  • 傾聴における質問は、事実に関する質問と比べて、やや難度が高くなる。

以上、記事を書いてみましたが、これはあくまで現段階での、わたしのざっくりした理解になります。少しでも皆さんの参考になれば幸いです。傾聴の技術、傾聴における質問の技術についてはさらに掘り下げて理解を深めていこうと考えています。

 

※この記事は旧ブログ「質問学」記事(2015-12-25)の転載です

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