傾聴における「伝え返し」の技法

コメント欄に質問をいただいたので、お答えします。

初めまして。
傾聴に関する情報をインターネットで調べ、傾聴サポーターのホームページに辿り着きました。
岩松先生のメルマガを拝見し、自分なりにまとめていっているのですが、その中で、伝え返し、という技法に気づきました。
友人が心理カウンセラーなのですが、彼女が傾聴を学んだときにはテキストにも載っておらず、聞いたこともなかったと言っていました。
この技法は、ある程度、上級レベルに達してから求められるものなのでしょうか?
突然、このようなことをお聞きして申し訳ございませんが、ご教示いただけますと幸いでございます。
ご迷惑でなければ、宜しくお願い申し上げます。

(質問者:ユキナさん)

 

質問にでてくる「岩松先生」とは、私が傾聴を習っている岩松正史さん(JKDA 日本傾聴能力開発協会代表)のことです。
岩松さんのところでは、傾聴の技法として「うなずき、あいづち、くり返し」、また「伝え返し」(要約)などを習います。この場合の「くり返し」は「相手が使った言葉(とくに気持ちのキーワード)をそのままくり返すこと」、また「伝え返し」は「話の要点や感情表現をとらえて返すこと」です。

単語やフレーズをそのまま返すのが「くり返し」、話のまとまりについて「つまり……なんですね」というように要約して確認するのが「伝え返し」だということですね。

技法のレベルとしては(1)うなずき、あいづち→(2)くり返し→(3)伝え返し(要約)だと考えていいと思います。

さて、この「くり返し/伝え返し」は、傾聴にとってどの程度大切なのでしょうか。

私の理解でいえば、これらは傾聴にとって重要なスキルであり、とくに「くり返し」は「うなずき、あいづち」と並んで基本的な技法だと考えていいでしょう。

話を整理するために、まず「傾聴ではない聞き方」を確認します。次のような聞き方は傾聴とは別物です。

  • 相手の話に「いい/わるい」の判断をくだす
  • 相手にアドバイスや説得を試みる

これらの聞き方が必ずしもダメだというわけではありませんが、少なくとも、今お話ししている「傾聴」では、このような聞き方は行いません。

では、傾聴ではどんな聴き方をするかというと、次のような態度が大切だとされます。

  • 聴いているときの状態が、仮面や役割や見せかけではなく自然な状態の自分である(一致)
  • 相手を無条件に温かく受け入れる(受容)
  • あたかもその人自身の気持ちを体験しているかのように、相手の身になって聴く(共感的理解)

このように「自分に正直に」「相手を受け入れ」「相手の身になって」聴き、さらにそのことが相手に伝わることで、相手も「自分の気持ちを理解してもらっている」と感じられるようになります。

その意味で、話を聴いてもらう人(クライアント)が「自分の気持ちを分かってもらった」と感じてくれることが、傾聴の大切なポイントだと私は考えています。

相手の話にうなずいたり、あいづちを打ったりすることは、そういった「相手の気持ちを理解し、その理解を相手と共有する」ための手段になります。「くり返し」「伝え返し」も目的は同じです。

たとえば、相手が「仕事であんなことやこんなことがあって、もう泣きたいほど悔しい」というような話をしているとします。そのときに「泣きたいほど悔しい…」という言葉をくり返したり、「つまりあなたは泣きたいほど悔しいんですね」というようなかたちで相手の気持ちを確認することで、相手は「話を聴いてもらっている」「自分の気持ちを分かってもらっている」と感じることができます。

参考までに、手元にある本を紹介します。

『一目でわかる傾聴ボランティア』(鈴木絹英 編、工藤ケン 文・画/NHK出版)では、傾聴のスキルとして「相づちを打ち、うなずく」と並んで「相手の言葉を繰り返す」が載っています。

本のページ。「相づち」の説明

 

さらに詳しく知りたい場合は『はじめてのカウンセリング入門(下) ほんものの傾聴を学ぶ』(諸富祥彦著/誠信書房)をオススメします。著者は明治大学の諸富先生で、「傾聴の5ステップ式トレーニング」の第1ステップに「うなずき、あいづち」「くりかえし」、第2ステップに「共感的な伝え返し」が登場します。

 傾聴を中心としたカウンセリングで、もっとも多く使われる技法が、共感的な「伝え返し(リフレクション:reflection)でしょう。かつては「反射」とか「感情の反射」などと訳されていましたが、最近は私も《伝え返し》という訳語を使うようになりました。
(中略)
四十代のころのロジャーズのカウンセリングにおける応答の八割が、この《伝え返し》であったといわれています。

(p136~137)

このようにロジャーズは、死の前年、一般に「伝え返し」と呼ばれている技法の内実は、クライアントの体験世界の「鏡」になることであり、相手の内的世界についての自分の理解や受け取りを確かめていくことである、という見解を表明しています。
《伝え返し》は、単なるオウム返しではありません。
クライアントの方が表明されている気持ちのエッセンスを感じとって、「あなたがおっしゃっているのは……ということでしょうか」と、こちらの「理解」や「受けとめ」を、クライアント自身の内側で響かせて「確かめてもらう」という姿勢でおこなっていく応答のことです。

(同書 p138)

 

以上のように、「くり返し」「伝え返し」は、傾聴にとって大切な、基本ともいっていい技法だと私は理解しています。

ご興味ある方は次の記事もぜひご覧ください。

(関連記事)「山びこ」だけじゃ物足りない。傾聴における「伝え返し」の技法(2)

 

【参考文献】

  • 『ロジャーズが語る 自己実現の道』(C.R. ロジャーズ著、諸富祥彦・末武康弘・保坂亨 共訳/岩崎学術出版社)
  • 『はじめてのカウンセリング入門(下) ほんものの傾聴を学ぶ』(諸富祥彦著/誠信書房)
  • 『一目でわかる傾聴ボランティア』(鈴木絹英 編、工藤ケン 文・画/NHK出版)

※この記事は旧ブログ「質問学」(2017-01-17)の転載です

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