MIと傾聴のスピリット:心理学用語の「共感」とは?
先週の動機づけ面接(MI)紹介記事が好評だったので、もうひとつ書いてみます。「正確な共感」についてです。
MIのスピリット〜受容〜正確な共感
MIには、迷っている人を一定の方向にガイドする技術ですが、それが表面的なテクニックだけに陥らないように「スピリット」が重視されています。
もちろんそれぞれに詳しい説明があるのですが、ここでは省略して次に進むとして、この4つのスピリットのうち、「受容」にはさらに4つの側面があります。
「正確な共感」が登場しました。…皆さんはどんなことを想像されますか?
心理学用語の「共感」は日常的な意味での共感とは異なります。
それを確認してみましょう。
クライエントがトランプ大統領だとしたら?
極端な例ですが、あなたにとってのクライエント(来談者、患者)がトランプ大統領だとしましょう。
大統領は「国境に壁を作るべきなのに、反対が多くて実現できない」と、イライラ、怒っている様子です。
このとき「正確な共感」とは、次のどれになるでしょうか?
(1)「そうですよね〜」といって、自分も一緒に怒る。
(2)
「お気持ちはもっともです」と受け止めたうえで「でもまずは冷静に」とアドバイスする。
(3)「壁のことはわかりませんが、私にも同じような経験…自分の提案を反対されて困ったことがあります」と共通点を見つけて伝える。
(4)上記(1)〜(3)のどれでもない。
…さて、いかがでしょう?
相手の目を通して世界を見ること
正解は(4)(1〜3のどれでもない)です。
「正確な共感」は(1)のように賛成や反対を示して相手を評価することではありません。これは、相手の感情に巻き込まれてしまうことにもつながります。
また(2)のようにアドバイスすることや(3)のように自分と共通の経験を見つけることでもありません。これらも(方法として必ずしもまちがっているわけではありませんが)「共感」とは別物です。
では、MIにおける「正確な共感」とは何か。それは…「相手の目を通して世界を見ようとすること」です。
あるいは、MIとも関わりの深いカール・ロジャーズの言葉で表現すれば、「クライアントの内的世界を、あたかもカウンセラー自身のものであるかのように感じながら、しかし『あたかも』という性質を決して失わずに感じること」です。
(参考:『動機づけ面接 第3版(上)』(ミラー、ロルニック著、監訳・原井宏明/星和書店))
目の前にいる彼はいま、怒りを感じているのか。もどかしさを感じているのか。あるいは、なんとしてでも支持者をつなぎとめたいと思っているのか。その奥にはどんな価値観があるのか…?
ここでの主人公は、カウンセラー/セラピストであるあなたではなく、クライアント(トランプ大統領)です。
クライエントがいま何を思い感じているのか、相手の目を通して世界を見ようとする、そして相手の感情(気持ち)を正確に理解しようとつとめる。その試みこそが「正確な共感」です。
クライエントが見ている世界を確認する
一例ですが、
「あなたは思うように計画が進まなくて困ってらっしゃる…(?)」
と彼に確認してみましょう。それはクライエントの内的世界を正確に知ろうとする態度になります。
もちろん、この伝え返しが結果として正しいかどうかは分かりません。だからこそ、言葉にして確かめるのですね。
もし本人にとってしっくりこないということなら、そういった反応になるでしょうから、こんどは別の言葉で確認を試みることになります。
相手の目(心)にどんな景色が見えているのか、まずそれを正確に知ろうとすること。
MIのスピリットの重要な要素でもある「正確な共感」は、日常のコミュニケーションにも活かせると思いませんか?
※ここでの「正確な共感」はロジャーズがいう「共感的理解」と重なります。ロジャーズについてはこちらの記事を参考にしてください。
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