「山びこ」だけじゃ物足りない。傾聴における「伝え返し」の技法(2)
2年前の記事「傾聴における伝え返しの技法」には、おかげさまでコンスタントにアクセスがあります。
皆さん「傾聴 伝え返し」のワードで検索するのでしょうね。
今回は「傾聴しながらガイドする」コミュニケーション技術である動機づけ面接(MI)の学びも踏まえ、なぜ単なるオウム返しではなく、自分が理解した内容を確認する伝え返しが必要なのかについて、補足します。
○傾聴における「くり返し」と「伝え返し」
2年前の記事はざっくり言うと、次のような内容でした。
○傾聴の技法のなかに「くり返し」と「伝え返し」がある。
- 「くり返し」は「相手が使った言葉(とくに気持ちのキーワード)をそのままくり返すこと」
- 「伝え返し」は「話の要点や感情表現をとらえて返すこと」
○「伝え返し」(reflection)はカール・ロジャーズが多く用いた技法。単なる「オウム返し」ではなく、クライアントが表明する気持ちのエッセンスを感じとって、「あなたがおっしゃっているのは……ということでしょうか」と、こちらの「理解」や「受けとめ」を、クライアント自身の内側で響かせて「確かめてもらう」という姿勢でおこなっていく応答のこと。
世間では「傾聴=オウム返し」と言われることもありますが、上のマンガでは「山びこ」として表現してみました。
皆さんも、話し手の立場をイメージしてみてください。
言葉を単純に繰り返すだけでは、聞いてもらっている側も何か物足りなくありませんか?
いったい何が足りないんでしょうか?
○トーマス・ゴードンによる「コミュニケーションのプロセス」
カール・ロジャーズの弟子トーマス・ゴードンは、相手の言葉を理解しようとするコミュニケーションにおいて、3段階のミスが起こりうることを指摘しました。
(1)話し手が自分の考えを言語化するときのミス
図の左側、話し手の「考え→コトバ」の部分です。
自分の考えや感情をうまく言語化できないことってありますよね。
- どう表現すればいいかわからない。
- (本当は寂しいのに、自分では気づかず)怒りとして表現してしまう。
- 恥ずかしいからごまかして表現してしまう。
などなど。
(2)話し手の言葉を聞き手が間違って受け取ってしまうミス
図の上部、「コトバ→コトバ」の部分です。
- 聞き間違い
- 聞き逃し
など。ここは単純ですね。
(3)話し手の言葉の意味を聞き手が間違って解釈してしまうミス
図の右側、「コトバ→理解」のミスです。
(1)が話し手によるアウトプットのミスだとすれば、こちらはその逆で、聞き手によるインプットのミスになりますね。
話し手が「もっと社交的になりたいです」と言うとき、その意味する内容はいろいろ考えられます。
- 「もっと友人がほしい」
- 「初対面の人と話すとき緊張してしまう。なんとかしたい」
- 「人気者になりたい。みんなの注目を浴びたい」
- 「飲み会やイベントにもっと誘ってほしい」
つまり、話し手がどんな意味でそう発言したのかを理解することが必要になります。
さて、この3種類のミスのなかで、単純な「くり返し」(オウム返し)によって防ぐことができるのは、実は(2)のミスだけです。
さきほどのマンガの「山びこくん」のようにオウム返しをしていても、(1)や(3)のミスの可能性は残ったままです。
だからこそ、(4)の確認が必要になります。
この理解の確認が、傾聴における「伝え返し」の本質です。
○氷山型の伝え返し
話し手が直接口にする言葉は、氷山にたとえると水面上に見えている部分に過ぎません。
その一方、水面下の見えない部分(話し手の思い、感情、価値観…)は何だろうかと推測し、それを話し手自身に確認することこそが大切です。
○まとめ:「くり返し」と「伝え返し」
傾聴における「くり返し」と「伝え返し」の違い、おわかりいただけましたでしょうか。
MIではこれを「単純な聞き返し(Simple Reflection)」「複雑な聞き返し(Complexed Reflection)」と呼びます。
- くり返し(オウム返し/山びこ)=単純な聞き返し(Simple Reflection)
- 伝え返し=複雑な聞き返し(Complexed Reflection)
そして傾聴においては、「くり返し」も大切な基礎技術ではありますが、「伝え返し=複雑な聞き返し」こそがより本質的な技法になります。
もちろん、傾聴とMIの用語が厳密に重なるわけではありませんが、この記事を理解の入り口として活用していただけると嬉しいです。
(参考)
『動機づけ面接 第3版 上』(ミラー&ロルニック著、原井宏明監訳/星和書店)