「一期一会のセラピー」で大切なこと〜シングル・セッション・セラピー(SST)研修を受講して
◯「一期一会」のセラピー:「初めて」が「最後」であるかのように
「一期一会のセラピー」をご存じですか?・・・と言っても、これは私がニックネーム的に名付けただけですが。
正式名称は「シングル・セッション・セラピー」(Single-Session Therapy, SST)といいます。
これは文字どおり「1回のセラピー」という意味です。(特定の心理療法ではありません)
「1回のセラピー」というと、「中途半端なもの」「簡単なもの」「計画の失敗」というイメージを持たれる方もいるかもしれません。
しかし、SSTの研究者であるモーシィ・タルモンによれば、世界で行われているセラピーの回数を調査すると、現実として一番良くある回数は1回なのです。そして、次に多いのが2回、その次が3回…と続きます。
さらに、初回面接のみでクライエントが姿を見せなくなるような、従来「治療の失敗」として捉えられてきたケースの多くで、予想外の改善が示されていたことも明らかになっています。
その意味で、長期の継続を前提としない1回のセラピーを、どんな心構えで、何に気をつけて行うか、また具体的にどんな手順で進めるかは、非常に面白いテーマだといえます。
SSTの定義は研究者によって異なりますが、私は「セラピストとクライエントが最初のセッションに対して、それがあたかも最後のセッションであるかのように臨む」という「”あたかも”の原理」(as-if principle)に注目しています。
「最初のセッションをまるでそれが最後のセッションであるかのように臨む」…これは日本語の「一期一会」という言葉にも通じると思いました。
広辞苑によれば「一期(いちご)」とは「一生。一生涯。生まれてから死ぬまで」という意味で、「一期一会」は千利休の弟子宗二の言葉「一期に一会の参会」に始まる茶道の心得として「生涯にただ一度まみえること。一生に一度限りであること」とあります。
「多くの人は1回しかセッションを受けない。そのため、セラピストとクライエントが、最初のセッションをあたかも最後のセッションにするつもりで臨むことが推奨される」。そのような性質を持つSSTは、「一期一会のセラピー」とも言えるのではないでしょうか。
◯SSTの歴史〜フロイトからエリス、ドライデンまで
SSTの歴史を振り返ると古くはジークムント・フロイトが作曲家のグスタフ・マーラーに1回限りのセッションを行なった記録があります(1910年)。
また1920年代にアルフレッド・アドラーは親子の問題についての公開デモセッションを行なっていました。
1965年にカール・ロジャーズ(来談者中心療法)、フリッツ・パールズ(ゲシュタルト療法)、アルバート・エリス(論理療法=REBT)がグロリアという女性をクライエントとしてそれぞれ30分ほどのセッションを行なったことも、SSTの歴史的な例だといえるでしょう。
アルバート・エリスは同じ1965年から公開でのデモセッションを行うようになりました。観客の中から感情的問題についての助けがほしいクライエント志願者を募って、その場で30分ほどのセッションを行います。この「フライデー・ナイト・ワークショップ」は2005年まで続きました。そしてエリス博士が2007年に93歳で亡くなった後も、ニューヨークのエリス研究所名物の「フライデー・ナイト・ライブ」として受け継がれています。私も観客やクライエント役としてオンラインで参加したことがあります。
また、SSTの概念は前述のモーシィ・タルモンが1990年ごろに提唱し、現在も研究が続けられています。
私が最近研修を受けたウィンディ・ドライデン先生はアルバート・エリスの高弟でありREBT(論理療法)の世界的セラピストである一方、SST関連の著書も20冊以上出版しています。
◯SSTのゴール、大事なこと〜クライエントの「強み」を発見する
では、初めてのセッションをあたかも最後のセッションのように想定する「一期一会のセラピー」とも言えるSSTでは、何をゴール(目標)とするべきでしょうか?
1回のセラピーでクライエントの複雑な問題を魔法のように解決することは非現実的です。
そうではなく、クライエント自身がこれから問題解決に取り組んでいけるための手助けが大切になります。
クライエントが問題に絡め取られた一種の膠着状態にあるとすれば、そこから何とか抜け出して一人で歩いていけるようになる手助けをする、そんなイメージかもしれません。
そのためには、クライエント自身の強み(strength)を発見することが大切になります。
過去に問題を克服した経験や、これから問題解決に取り組んでいくための能力。また、そのような強みに加えて、友人や家族などの人間関係やサポート機関などのリソース(資源)。それらにスポットライトを当て、クライエントが自分の力で歩んでいける手助けをするのです。
◯SSTの研修を受講して
最近、私はSSTのオンライン研修(3時間×8回)を受講しました。
他に別の研修(動機づけ面接のコーディング)を受けている期間だったので、受講の誘いがあった時に少し迷いましたが、ウィンディ・ドライデン先生に直接教えてもらえるということもあり、思い切って参加してみました。
インドの研修機関(ムンバイの In Vivo)が主催で、他の参加者はインド人やアメリカ人でした。例によって(?)私だけ英語で苦労していましたが、彼らとお互いにセッションを行った体験は忘れられないものとなりました。
一回の出会いの中で、どうやって相手の強みを発見するか。そして、相手が問題解決に向かって柔軟に行動できる手助けをするか。
カウンセリング・セッションに限らず、ワークショップの開催、日常の中での人との出会いでもその視点を自分なりに追求するつもりです。
※SSTのセッションに興味がある、受けてみたいという方はご連絡ください。
藤本祥和
REBT心理士、動機づけ面接トレーナー(MINTメンバー)