変化についてのディスカッション・ロジャーズとジャガイモの芽の話〜OARSで学ぶ傾聴教室
OARS(オールズ)で学ぶ傾聴教室。今回は10分の傾聴セッションを行いました。
参加者Aさんは、仕事で傾聴を使う機会が多い一方、さまざまなクライエントに接する際の必要性を感じて動機づけ面接(MI)も学んでいます。
今回、Aさんが10分の傾聴セッションを行うと、話し手(CL)のBさんは、最初は「いろいろ忙しくて大変」状態だったのが、後半は「忙しい中でも前向きに取り組んでいこう」というモードになりました。 ※話の内容は守秘義務の観点からアレンジしています。
なかなかいい傾聴セッションに見えましたが、聞き手のAさんは終了後、あることが気になりました。
それは「傾聴セッションなのに、無意識のうちにMIのスキルを使って『やる気』方向にCLを誘導した可能性もあるのではないか」という懸念でした。
傾聴では、特定の方向性は定めずにCLの気持ちや考えを誠実に理解しようとし、その理解を伝え返します。
それに対してMIでは、一定の条件が整った後は、CLの変化の方向を意識しながら、行動変容をより強くサポートすることを目指します。
今回のセッションでCLのBさんは、10分の間にやる気が湧いてきました。
これはBさんにとっていいことに見えますが、厳密に考えると、「やる気になる」方向が常にCLにとってベストかどうかは分かりません。
例えば、資格の勉強をやる気になることがその人にとって正解かどうかはケースバイケースです。
もちろん、それが望ましい場合もありますが、逆に、「無理をしすぎて体調を崩した」「資格を優先して家庭が疎かになった」「高額な資格は費用対効果のバランスが悪かった」などということもあります。
今回のAさんのセッションの場合はどうでしょう。オブザーバーをした私も含めてディスカッションをして、「今回、聞き手のAさんがBさんを『やる気』の方向に誘導したわけではなく、傾聴するうちにCLは自らの気づきで、やる気になった」ことを確認しました。
「傾聴の元祖」アメリカの心理学者カール・ロジャーズは、人間が自らの力で可能性を実現していく性質を、しばしば彼が少年時代に見たジャガイモに重ね合わせました。
小さな窓しかない地下室の貯蔵庫に置かれたジャガイモは、恵まれない条件の中でも小さい窓から漏れる薄日に届こうと60センチも90センチも芽を伸ばしていた。ロジャーズはそんな印象的な光景を人間の「実現傾向(actualizing tendency)」に重ね合わせたのです。(参考:諸富祥彦著『カール・ロジャーズ カウンセリングの原点』p86)
今回は、「人が自ら気づいて変化する力」について「ロジャーズのジャガイモ」のエピソードも出しながらディスカッションしました。
また、セッション練習で自ら課題設定することの大切さについても話しました。
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(感想)
・あらためて傾聴演習によって、クライエントさんには自分を良い方向へ向かっていこうとする力があるということを再認識しました。
・今回の傾聴の練習で気づいたことは、課題の設定を習慣化するということです。課題を設定して取り組むことで結果が違ってくると思いました。
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「OARSで学ぶ傾聴教室」は、傾聴とMIの橋渡しについても考えながら、月に2回(第1・3火曜20:30〜21:45)開催しています。