REBT(論理療法)のルーツ ストア派哲学者・エピクテトスの発想
認知行動療法のひとつであるREBT(論理療法)のルーツは2000年近く前に遡ります。REBTを語るうえで欠かせない名前が、古代ローマ時代に生きたストア派の哲学者エピクテトスです。
REBT(論理療法)のルーツ ストア派哲学者・エピクテトスの発想
エピクテトスは西暦55年頃、今のトルコに生まれました(ローマ皇帝ネロが即位した頃)。奴隷の子供として誕生、片足が不自由でした。ローマで奴隷として過ごしたあと解放され、後半生はギリシャ本土のニコポリスという町で哲学の学校を創建しました。80歳を越えて、136年ごろに亡くなったとされています。
○エピクテトスの言葉
上のマンガでも紹介したエピクテトスの言葉を見てみましょう。
人々を不安にさせるのは、事柄ではなく、事柄についての思いである。(エピクテトス『要録』)
“People are not disturbed by things, but by the views they take of them.” ― Epictetus
この言葉に続けて、死でさえも恐るべきものではないと彼は言います。
なぜなら、死が恐るべきものだとしたら、あのソクラテスもそれを恐れたはずなのに、ソクラテスは死を恐れなかったのだから。
「死は恐ろしいものだ」という死についての思い、これが恐ろしいものなのだというのがエピクテトスの洞察です。
…徹底していますね。
健康も、財産も、家族も、エピクテトスにとっては神からの「借り物」に過ぎません。それを失うときは、執着することなく「神にお返しするのだ」という態度でした。
「出来事が、きみの好きなように起こることを求めぬがいい、むしろ出来事が起こるように起こることを望みたまえ。そうすれば、君は落ち着いて暮らせるだろう。」
「例えば、病気は肉体の妨げになるならば、意思自身がそのつもりでないかぎり、意志の妨げにはならない。足が不自由なのは足の妨げになっても、意志の妨げとはならない。」
(エピクテトス『要録』)
自分の外にある事物には執着しない。そのかわりに内なる意志の自由と平穏を求め続けたのでした。
○エピクテトスからREBTへ
REBT(論理療法)の創始者アルバート・エリス博士は哲学が好きな若者でした。中でもこのエピクテトスから大きな影響を受け、逆境の中にあっても心の平静を保つ方法を追求しました。
REBTのABC理論は、まさにエピクテトスの言葉の発展形といえます。
【ABC理論】
出来事(A)そのものではなく、不健康な思い込み(B)が不健康な結果(C)を引き起こす。
- A:出来事
- B:思い込み(イラショナルビリーフ)
- C:結果(感情・行動)
また、最悪の状況をシミュレーションすることで平静を保つ「クリティカルA」の方法も、エピクテトスの発想と重なります。
【クリティカルA】
起こりうる最悪の事態を想定しておけば、動揺しなくてすむ。
みなさんも怒りや不安で感情が乱れそうになったときには、エピクテトスからREBTに至る2000年の知恵を活用してみませんか。
(参考文献)
- 『エピクテトス 語録 要録』(鹿野治助訳/中公クラシックス)
- 『ギリシア・ローマ ストア派の哲人たち セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウス』(國方栄二著/中央公論社)