REBTと動機づけ面接のアイデアスケッチ「家族のセルフヘルプ」
「煮詰まる」という言葉があります。辞書を引くと、もともとは(1)「十分に煮えて水分がなくなる」という料理用語。そこから(2)「問題が十分に検討されて解決や結論に近づく」という意味が生まれ、さらに最近は(3)「議論や考えなどがこれ以上発展せず、行き詰まる」という意味が載っています。
この2番めの良い意味で、私の考えがだんだん煮詰まってきたように思います。それは「家族のセルフヘルプ」という発想。
研修に参加したり、ワークショップを開催したり、いろんな人の相談に乗ったりしながら、このワードが生まれてきました。
アイデアのスケッチとして紹介しましょう。
REBTと動機づけ面接のアイデアスケッチ「家族のセルフヘルプ」
○2人とも疲弊するパターン
「幸福な家庭はすべてよく似たものであるが、不幸な家庭は皆それぞれに不幸である」とは、ロシアの文豪トルストイの言葉ですが、実は、家族の問題に共通するパターンもあります。
それは「家族内でAさん(たとえば親)がBさん(たとえば子供)を助けようとするのに、上手く行かず、2人ともが疲弊する」というパターンです。
家族の誰かに「依存症」「病気」「ひきこもり」「不登校」「反抗」などの問題がある場合、またシングルマザーやステップファミリーなど、さまざまな「家族の形」に応じた問題を感じている場合。
Aさん(あなた)がBくん(問題がある子供)を「いい方向に変えたい」と努力している場面を想像してみてください。
この状況で、問題解決が進まない原因として、「Bくんにとって変化することへの重要度が低い」ということが考えられます。
「重要度」とは「本人が自覚している重要性のレベル」のこと。「変わりたい気持ちの度合い」とも言えます。
たとえば「健康のために運動しなきゃ」と思っている人は運動の重要度が高い状態です。逆に「いま健康だし、運動の必要をそんなに感じない」という人は重要度が低い状態です。
Bくんにとって「変わりたい」「何とかしたい」という変化への重要度が低いのに、家族であるあなたがアドバイス、説得を試みてもうまくいきません。人はまず本人がその気にならないかぎり、アドバイスや説得や脅迫では動かないのです。
○ステップ1:動機づけ面接で重要度を高める
この重要度をあげるには「動機づけ面接」(MI)が有効です。
動機づけ面接は「傾聴しながらガイドする」コミュニケーション法なので、まずはBくんの価値観や考えなどを受け入れて話を聴く傾聴がベースになります。
変化へのやる気を引き出すガイドの技術はその次の段階ですね。
○ステップ2:論理療法で自信度を上げる(自分から楽になる)
また、問題解決への取り組みを根気よく続けていくには、Aさん(あなた)の「自信度」も大切です。
あなたが家族の中でBくんを助けようとするなら、まずはあなた自身が楽になる必要があります。溺れている人が、もうひとりの溺れている人を助けることはできないからです。
この場合に、自分が楽になって「自信度」を上げる方法として、論理療法(REBT)のセルフヘルプを身につけることが有効になります。
論理療法は認知行動療法のひとつですが、もう少し日常的に「考えの歪みをチェックして柔軟に対応するためのメソッド」と考えてもかまいません。
自分が疲れてしまうとき、そこにある「ベキの壁」を見つけて、柔軟かつ現実的に対応できるようにするのです。
○ステップ3:長期的な視点で問題解決に取り組む
さて、あなたが動機づけ面接と論理療法を継続的に学ぶことで、あなたの「自信度」とBくんの「重要度」を上げることができました。
すると、外部の専門機関や問題解決グループへの参加も含めて、長期的なビジョンで問題解決に取り組むことができるようになります。
これはただやみくもに不安になるよりも、いい方法ではないでしょうか。
○まとめ:「家族のセルフヘルプ」のビジョン
「家族のセルフヘルプ」のビジョンをまとめると、こうなります。
【現状】変化への重要度が低い状態でBくんを変えようとしても上手くいかない。
↓
【家族のセルフヘルプ】
- 「動機づけ面接」(傾聴+ガイド)を用いて、Bくんにとっての重要度を上げることができる。
- 「論理療法」(セルフヘルプのメソッド)を用いて、あなた自身が楽になる。
- あなたの自信度とBくんの重要度が上がった状態で、外部の助けも借りながら、長期的に問題解決に取り組めるようになる。
この「家族のセルフヘルプ」のビジョンを具体化するには、論理療法や動機づけ面接・傾聴の専門家の方々、個々の問題に取り組んでいるグループの方々、問題の当事者の方々など、多くの方々のご協力が必要です。
一朝一夕にできるものではありませんが、私自身、楽しみながら取り組んでいきたいと考えています。