「正したい反射」に気づけば、コミュニケーションの質が高まる(Righting reflex)
ある出来事に遭遇したときに頭の中を自動的によぎる考えやイメージを「自動思考」と言います。「自動思考」に関連して、ちょっと面白い現象を紹介しましょう。
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私たちは、相手が間違ったことを言うと、とっさにその間違いを「正したい」という衝動に駆られます。この衝動的・反射的な願望を「正したい反射」(Righting reflex)と言います。
あなたがよく知っていること、たとえば世の中のできごとやあなたの専門について家族や友人が間違った発言をしたら、「いやいや。そうじゃなくてね…」と瞬間的に訂正したくなりませんか。
私も以前は「正したい反射」の塊でした。
ネットで「受動喫煙の害は証明されていない」とか「禁煙はファシズムだ」と書いている人を見ると、「いやいや科学的には○○で✗✗…」と、反射的に訂正を入れたものでした。
ところが、それで相手が「あ、そうだったんですね!認識を改めます」となるかといえば、まったくそんなことはなく。
反発されるか、無視されるかで、こちらも徒労感を味わうのが常でした。
「正したい反射」のデメリット
この「正したい反射」は誰にでもある衝動で、かつての私のように無自覚でいると弊害もあります。
子供が思うように勉強しなかったり反抗的な態度をとったりすると、親はしばしば当然のように「いやいやそれは違うだろう」「何で○○しないの?」と「正したい反射」で反応してしまいます。
ところが子供の方はいきなり否定されることで萎縮したり、反発したりしてしまいます。「正したい反射」を発動したからといって、相手がそれに従順に応えるとはかぎらないのです。
医療分野のコミュニケーションもこれを意識して変化しつつあります。
たとえば禁煙外来で患者が間違った発言をしても、医者がそれを即座に訂正することがいいとはかぎりません。正しい知識を押し付けても、患者の「変わりたい/禁煙したい」という気持ちが萎えてしまっては意味がないからです。
その場合、医者は「なるほど。あなたのおじいさんはヘビースモーカーだけど90歳まで長生きした。だからあなたはタバコがそこまで悪くないと思っていらっしゃるんですね」と、共感的な傾聴で患者の発言を否定せずに受け止めます。
そのうえで「その一方で、ご家族はあなたのことを心配している。またあなた自身もこのままずっと吸い続けていいのか不安も少しあるのですね」と、「変わりたい」方向にフォーカスを当てます。(動機づけ面接/MI)
「自動思考」も「正したい反射」も、それを自覚することで、自分を変えるきっかけを掴んだり、コミュニケーションの質を高めたりすることができます。
まずは自分を観察できるようになること。その習慣が変化の土台となるのです。
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