共感を伝える。デモと来年の構想〜足立区のオンライン研修を終えて
先週末は2日とも足立区の助成金を受けたオンライン研修がありました。無事に終わって、ホッ (^^)
2つのワークショップは別々のシリーズですが、いちばん伝えたい内容は共通。それは「共感」です。
ここでいう「共感」は、心理学用語で「共感的理解 Empathic Understanding」と呼ばれるもので、自分の判断を交えずに、相手の内的な世界(気持ちやモノの見方)を誠実に理解しようとする態度のことです。
相手の発言に対して「賛成/反対/いい/悪い」と評価するのではなくて、「あなたが見ている世界は○○なのですね」と理解すること。
この「共感=エンパシー」が意識的にできるようになると、コミュニケーションの幅がグンと広がります。
(関連記事)
○傾聴とロジャーズ(4)ロジャーズが語る傾聴の方法〜5つの条件とは?
○参加者の感想:足立区在住のライター・上田さんの場合
足立区在住のライター・上田隆さんが、SNSにイラスト付きの感想をアップしてくれました。
「相手を理解すると驚くほど柔軟な会話ができる」という
オンライン講座を受ける。
主催はNPO法人なりわいプロジェクト」
(代表・古怒田悦子さん)で、
講師はラジオディレクターでREBT心理士の藤本祥和さん。「共感(エンパシー)」がキーワードとなる。
その会話術は、ライターを生業とする自分にとっては、具体的なインタビュー法、また「傾聴」の心得として聞けてとても参考になる。共感とは「相手の価値観を知る」ことから出て来る感情とする。
一歩進めて、「相手の価値観にひたりきる」ことだと考えてみる。それは、自分の世界をぐんと広げることにもなろう。どこか映画を観ることにも似ている。とくに「説得」が面白かった。
ダイエットしたい、英会話したいけど、なかなかできません、という相手に、「ぜひやりましょう」といろいろ提案して説得せよというのが課題。相手を知らずに説得を試みると、うまくいかない。
自分の価値観から出た提案は、相手の価値観にぴったり合うとも限らないので当然ともいえる。つまり日常、人の提案は聞き流し、自分の提案は聞き流されているということだ。講師の藤本さんがデモンストレーションでやった方法では、自分の意見はいっさい言わない。
相手から「提案」を引き出すことで「説得」する会話術である。
たとえばダイエットしたいというなら、その動機、動機の強さ、
具体的な計画、モチベーションを相手から自分で言わせてしまう。答えは相手自身が持っている。相手と自分との「共感の地場」が築けて初めてそれが成立するということだ。いろんな人間関係に使える。
一方的に説得を試みるのではなくて、まずは相手を理解する共感的なアプローチを、ご自身の職業(ライター)やインタビューに役立つ技術として受け取ってくださったのですね。
ありがとうございます。
「自分の考えを相手に理解させる」(説得)ではなく、「まずは相手を理解する」ことに徹する共感的アプローチは、カウンセリングの場面だけでなく、家庭や学校、ビジネスシーンなど、実にいろんな場面で役に立ちます。
(世界的ベストセラーの自己啓発書『7つの習慣』(スティーブン・コヴィー著)の「第5の習慣」も、まさに共感的傾聴です。ご興味ある方は読んでみてください。)
※研修を主催する足立区のNPO「なりわいプロジェクト」のワークショップレポートはこちらです。
○デモンストレーションを見てもらうこと
この週末のワークショップでは2回とも、「共感的に傾聴しながら、相手のやる気を引き出す」デモンストレーションを行いました。(=動機づけ面接)
「ダイエット願望はあるけど、なかなか続かない」「エクササイズしたいけど、時間がない」のように変化したい願望と躊躇が混在しているケースで、参加者の1人に話し手(クライアント役)をお願いして、私が話を聞きながらやる気を引き出すというデモセッションです。
あまり込み入った内容でなければ、だいたい10分ほどあれば、デモを見せることができます。(今回は2回とも7〜8分でした)
これは、たとえていえば、ピアノ教室で講師が実際にピアノを弾いてみる、ダンス教室で実際にダンスを見てもらうようなものです。
それを見た参加者が、「なるほど、こんな風に演奏すると楽しそう」「自分もできるようになりたい」と、それぞれに感じてもらえれば。
上述の上田さんはデモを見て、「答えは相手自身が持っている」ことに気づき、「いろんな人間関係に使える」と感じてくださったのですね。
「共感的なアプローチ」(傾聴・動機づけ面接)については短時間のデモができるので、今後のワークショップでも積極的に取り入れたいと思います。
(研修企画などのお問い合わせは大歓迎です)
○デモのその先〜継続的に学べる仕組みづくり
デモセッションは、ピアノ教室でいえば講師が実際にピアノを演奏してみるようなもの。
逆にいえば、それを眺めるだけでピアノが弾けるようになるわけではありません。
ピアノが自由に弾けるようになるためには継続的な練習が必要ですし、また練習することで誰でもその人なりに演奏を楽しむことができるようになります。
そうすると、次の課題は「いかに継続して練習できる環境を作るか」になります。
私の体験では、コミュニケーション系の学びの場について、現状、大きく2つの取り組みがあるように思います。
ひとつは、「ある程度まとまった金額を払って学ぶ。何らかの資格がとれる」というシステム。もうひとつは「無料、または少ない手間賃で、サークルやボランティア的に学ぶ」システム。
どちらも意味がある仕組みで、わたし自身も学びの場として活用しています。
とくに動機づけ面接では、全国の医療・司法・支援職・教育関係者のネットワークが広がっています。
それを踏まえたうえで、わたしが第3の仕組みとして考えているのは、「音楽教室や語学教室、スポーツジムのように、比較的安価で継続して学べるシステム」です。
日本の現状:ひきこもり、不登校その他
たとえば今、日本ではひきこもり状態にある人が100万人を越えていると言われています。
もちろんそれ以外にも、不登校、発達障害、依存症、その他病気など、誰かが社会参加しにくい状態にあるときに、本人のみならず家族や友人など周りの人が苦しんでいることも多くあります。
そんな場合に、問題に取り組んでいる人たちが「まず自分から楽になって、継続的に問題解決に取り組むためのスキルを身につける」ことができる手頃な仕組みができないか?
ちょっと計算してみます。
日本の15歳から65歳の人口は7,467万人としましょう。(総務省統計局, 2018年)
このうちもし20人に1人が心理的な支援を必要とする状態にあるとすると、373万人。
その当事者を支援したいと思う家族や友人が3人ずついるとすれば、当事者と合わせて 373万×4=1,492万人になります。
もしそのうち100人に1人が「音楽教室や語学教室やスポーツジムのように、比較的安価で継続的に学べる仕組みづくり」に少しでも興味を持ってくれるとしたら、その数は1,492万÷100=14万9200、ざっと15万人ですね。
その中のさらに100人に1人が参加を現実的に検討して、さらにその中の3人に1人が実際に参加してくれるとすれば、15万÷100÷3= 500人になります。
実際にそれぐらいの参加者がいれば、「安価に、継続的に」学べる仕組みが成立するのではないかと考えています。
潜在的な需要(たとえば 1492万人)からすると小さな規模でも成立するので、各種ボランティア団体も含めた多くの取り組みのなかで、問題解決に向けた選択肢を増やす意味でも、こんな仕組みがあってもいいのではないでしょうか。
具体的なスキル(傾聴・MI・REBT)とまとめ
わたしが具体的に提供できるスキルは大きく2つあります。
一つは、傾聴・動機づけ面接のスキル。わたしはこの秋に国際的なトレーナーネットワークであるMINT(Motivational Interviewing Network of Trainers)のメンバーになりました。今後、世界の医療・支援関係の方々ともディスカッションしながら、その知恵を地域社会や日本でシェアできればと考えています。
もうひとつは REBT(論理療法/理性感情行動療法)をベースにしたセルフヘルプの技術です。こちらも、日本の学会での活動と並行して、今年NYのアルバート・エリス研究所のアドバンストコースを修了しました。(来年はその先に挑戦する予定)
これらを2本柱に、その他の技法も取り入れ、トータルで問題解決スキルを身に着けていくという発想です。
年内のワークショップが一段落したところで、今後の構想についても書いてみました。いかがでしょうか。
今年2月に書いた「家族のセルフヘルプ」のアイデアが少しずつ形になってきたように思います。
(関連記事)
○REBTと動機づけ面接のアイデアスケッチ「家族のセルフヘルプ」
○動機づけ面接と家族のセルフヘルプ〜「学校に行きたくない」子どもの場合
安価に、継続的に学べるシステムには、それなりの数の参加者が必要です。
まずは「共感的なコミュニケーションって大切だな」「なるほどこんなことができるのか」と関心ある人に知ってもらうことところから、一歩ずつ。
皆さんもぜひ、頭の片隅に留めておいて、身近に必要そうな人がいれば「こんなのあるらしいよ」と教えてあげてもらえると嬉しいです。