心のハグ〜京都自死・自殺相談センターSotto「聴き方のお稽古」ワークショップ感想
認定NPO法人京都自死・自殺相談センターSotto主催の「聴き方のお稽古〜働く人のための聴き方講座」に参加してみました。
SNSでたまたまイベント情報を見て申し込み。普段、私は傾聴/MI(動機づけ面接)やセルフヘルプのワークショップを行っていますが、「死にたい気持ちになった人」の相談を受ける機会はほぼないので、日常的に多くの電話・メール相談を受けているSottoさんのワークを体験してみようと思った次第です。
Sottoの相談件数はのべ18,000件(2016年まで実績)
○心のハグ
代表・たけさんのお話で印象に残ったのは「心のハグ」という言葉。
Sottoでは、電話やメールの相談のとき、「○○という言葉には△△と対応する」といった細かいマニュアルはありません。
そのかわりに、電話なら「はい、京都自死・自殺相談センターです」という第一声から、相手をハグする気持ちで誠心誠意関わっていく、そんな気持ちを大切にしているのだとか。
また、今回の講座ではちょっとしたワークとして、自分で自分の肩に手を置いたり、自分をハグする動作もしてみました。
○ロールプレイ〜気持ちをしっかりつくる
講座では聴き方のロールプレイも体験しました。
Sottoはもともと電話相談から始まっているので相談者を「コーラー」と呼び、また、相談を受ける側を「メンバー」(仲間)と呼んでいます。
聴き方のワークでは、「コーラー」「メンバー」ともに、その感情を、単に役柄を演じるということではなく、自分自身の思いとして持つようにします。「気持ちをしっかりつくる」というような表現もありました。
たとえば、コーラーの設定が「息子の嫁にいじめられて辛い。当てつけに首を吊ってやろう」という気持ちで電話をかけてきた人だとすれば、その気持を、表面的な演技ではなく、自分自身の思いとして持つようにします。
だからワークでも、その人の「気持をしっかりつくる」まで、たっぷり時間を取ります。
ロールプレイの設定例
- 事業に失敗して死んでしまいたい
- 婚約破棄
- 子供がひきこもりで疲れ切った。
- 母が統合失調症
- 上司を巻き添えにして、いっそのこと…
- 学校でいじめ
※注1:ロールプレイの設定は特定の事例そのままではなく、多くの事例を参考にしながら創作したものです。
※注2:与えられた設定が自分のリアルな問題と重なる場合には、別の設定に変更してもらうというルールがあります。
私はたまたま、たけさん(代表)のグループになりました。たけさんが最初にコーラー役をやってくれましたが、実際に相談者の気持ちになりきってからワークを始めるのでので、話し声にも涙声が混じります。また、電話相談の始めから沈黙も多くなります。
聞き手である私は、もちろん普段どおりにOARS(オールズ)を意識して受けこたえすることもできますが、ここではSottoの聴き方を体験するために、なるべく普段の方法で頭を働かせるのではなく、感情を生々しく体験してそのまま応答するように心がけました。(といっても、やはり身についているOARSになりますが…)
○役割は「半分」か「全部」か
私が普段、傾聴やMIのロールプレイを行うときには、「半分」その人、「半分」自分というバランスで行います。
たとえば、「禁煙したいけど迷っている人」のロールプレイを行うなら、その人を半分イメージしながら、残りの半分は自分自身の感情の動きを確認するようにします。
それに対して、Sottoのロールプレイは「できるだけその人になりきる」もので、とくに「死にたい気持ちを抱いている人」について、その人の気持になりきるというのは、私にとっては初めての経験でした。
一方の聴き役(メンバー)も、相手と自分の感情の動きををリアルに感じながら、「心のハグ」をする気持ちで、そこから沸いてくる言葉を素直に発していきます。
○質問1:感情移入しすぎて「巻き込まれる」ことはないか?
さて、ワークショップの中で2つ質問したいことが沸いてきました。
これについては、私が質問する前に、他の参加者との質疑応答で同じ話題がでてきたので、それを紹介します。
私が訊きたかったことの1つめは、「メンバー(聞き手)がコーラー(相談者)に感情移入しすぎて、そこに巻き込まれたり、疲れ過ぎたりすることはないか?」。
これについては、次のような説明がありました。
「メンバーは十分にトレーニングを積んでいるため、毎回の相談で感情を大きく動かすことは一種のスポーツのようなものとなり、そのために疲弊しすぎることにはならない。トレーニングによって心の体力がつく、とも言える」(大意)
○質問2:相談が上手くいかなかったときはどうするか?
私が質問したかったことの2つめは、「相談が上手くいかなかったときの対応」でした。これについては、次のような説明がありました。
「相談がうまくいって、コーラーとメンバーに心が通じ合い、気持ちよく終えられたときはいい。しかし、後味わるく相談が終わってしまうこともある。そんなときは、自分を責める感情やモヤモヤした感情をひとりで抱えこむことなく、周りのメンバーに聞いてもらうようにする」(大意)
いわば、メンバー同士で傾聴しあうのですね。
○まとめ・感想
いかがでしょうか。Sottoさんの相談の受け方、話の聴き方は、相談者の「死にたい」というネガティブな感情をできるだけ真摯に味わおうとするもので、私が普段ワークショップでお伝えしている方法とは違う点がありますが、それだけに、研修に参加できたのは貴重な体験でした。「心のハグ」…いい言葉に出会えたなあと思います。
皆さんもよければ参考にしてみてください。
※Sottoのホームページはこちらです。
※今後のイベントとしては、12月27日に松本俊彦氏(精神科医)とのYoutube対談『もしも「死にたい」と言われたら』などもあります。下のコラムもぜひお読みください。
※京都自死・自殺相談センターSotto設立10周年リレーコラム 第4回(精神科医 松本俊彦)
この記事の執筆者
藤本祥和:REBT心理士/動機づけ面接トレーナー/ハートのフィットネスクラブ主催