傾聴の誤解と傾聴の達人
春らしい陽気になってきました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
この週末の私の課題は「面談の練習」です。
10月にアメリカ・ニューメキシコ州で開催予定の動機づけ面接(MI)トレーナー研修に申し込みました。
このトレーナー研修については、「応募しようかな…どうしようかな…」と思って、やや傍観モードでいたところ、募集開始から一瞬で満席になってしまいました。
ところが「英語が第一言語でない人」の枠が少しあって、そこならまだ間に合うとのことで、応募してみたしだいです。
数日後には 20分間の面談(セッションのロールプレイ)があるので、不器用なりにも英語でできるように、準備しています。
論理療法と動機づけ面接を活かした「家族のセルフヘルプ」を実現するためには、本場の研修を受けておくほうがいいですからね。
傾聴の誤解と傾聴の達人
○傾聴についての2大誤解
さて、動機づけ面接(MI)の基本部分は「よく聞くこと=傾聴」にあります。
よく聞くことがMIの基本である。聞き返しという特異な技能は、MIの4つのプロセスすべてにおいて要となり、最初に学ぶべき技能である。
(『動機づけ面接 第3版』(上)/ミラー&ロルニック著、原井宏明監訳)p71
このように、MIと傾聴には密接な関わりがあります。
ところが傾聴については、世間でもまだまだ誤解があるようです。
よく耳にするのが次の2つのパターン。
○傾聴の誤解・その1:傾聴は疲れる、相手の話に巻き込まれてしまう。
○傾聴の誤解・その2:傾聴と言われても「はいはい」「そうですねー」という機械的な反応ばかりで、ちゃんと聞いてもらっている気がしない。
(1)は感情移入しすぎ、(2)は形だけで心がこもってない感じでしょうか。
これはどちらも、傾聴において本質的な「共感的理解」ができていない例になります。
ここでいう「共感的理解」あるいは「共感」は日常語の「共感」とは意味が異なります。相手に感情移入したり賛成したりすることではなく、相手がいまこの瞬間にどんなことを感じているのか、どんな風に出来事や世界を見ているのか…それを丁寧に理解することです。
その「共感的理解」ができれば、(1)のように相手に巻き込まれて疲れることもないし、また(2)のように「聞いている形だけ」ということもなくなります。
○傾聴の達人
文字だけではピンとこないかもしれないので、最後に「傾聴の達人」の動画をご紹介しましょう。
ここでいう「傾聴の達人」とは、来談者中心療法の創始者カール・ロジャーズ博士です。5分弱の動画です。
向かって左がロジャーズ博士ですね。このデモセッション(の一部)で、クライエントは怖れを感じていると言います。
長年続けている技術系の仕事は順調な一方でカウンセラーになりたいと思っているが、安全な職を離れることが怖くて先延ばしにしていると言います。
聞き手のロジャーズは、その怖れがどんなものなのかを理解するために、彼自身の表現に言い換えながらクライエントに聞き返します。
それを受けてクライエントはまた自分の言葉で自分の感情や考えを表現しようと試みます。自分の能力や学びがまだまだ不十分なのではないかと…。
・・・いかがでしょうか。英語がわかるかどうかはさておき(Youtubeは英語字幕を出すこともできますよ)、ここで注目してほしいのは、ロジャーズの「聴く態度」です。
(1)相手の話に巻き込まれて疲れる
(2)「はいはい」「そうですねー」と形だけ応答する
このどちらでもありません。
相手の気持ちや考えを誠実に理解しようとし、その理解を自分の言葉に置き換えて相手に伝え返しています。
ざっくりいえば、これが傾聴なのです。
目の前の相手を誠実に理解し、その理解を伝え返す。「傾聴ってよくわからない」という方は、まずはそういうものとしてイメージするといいのではないでしょうか。