カール・ロジャーズと「要約する力」〜傾聴における要約スキルについて
傾聴において、要約スキルをどう扱うかは、とても興味深い話題です。
◯傾聴における要約とは?
傾聴における最重要スキルは「聞き返し」(reflection)であり、要約は「大きい聞き返し」だといえます。
この「聞き返し」(要約も含む)は、クライエント(CL)の内的な経験(出来事、感情、考え、価値観…)を正確に理解するために行います。
カール・ロジャーズの言葉を借りれば「理解の確認」(testing understandings)ですね。
(通常の聞き返し)
通常の聞き返しは、CLの直近の発言に対して、その意味を確認します。
(要約)
要約は、CLのいくつかの発言について、まとめて聞き返します。
(例)
(複雑な関係にあった親が亡くなった人のいくつかの発言に対して)
「お母さんが亡くなって、悲しい気持ちと、ほっとした気持ち、いろんな連絡が面倒だという気持ち、それから、将来の不安がおありなんですね」と、理解を伝え返す。
ここで押さえておきたいのは、要約も聞き返し(reflection)の一つだということ。
つまりCLの内的経験の理解を確認するために行うことです。
その意味で、単なる事実関係の要約とは性質が違います。
◯要約のさまざまな役割
要約スキルには、さまざまな活用法があります。
いちど話をまとめて(つまり、この理解でいいか確認して)、「それについてどう思いますか?」、あるいは「この中で何を扱っていきたいですか?」と尋ねることもできます。
あるいは、「今リアルタイムで聞いたこと」と「前回聞いたこと」や「CLの行動」を合わせて伝え返して、それについてどう感じるか確認することもできるでしょう。
このように、要約のスキルを身につけることで、相手をサポートできるスキルの幅が広がりますが、ここでは1つだけ大切なポイントをメモしておきます。
・要約の要素に何を入れるか?(要約と変化の方向性)
要約の要素として何を取り上げるかは、クライエントの変化の方向性に影響します。
(例)
夫のDVから逃れてきた女性に対して、「夫とのいい思い出を中心に要約する」と「暴力から逃れたい思いを中心に要約する」「両方の思いを均等に要約する」では、CLの反応も変わります。
この場合、エンゲージング(関係づくり)の段階では「両方の思いを均等に」、関係ができた後の支援の段階では「暴力から逃れたい思いを中心に」聞き返したり、要約したりすることが一つの有効なアプローチになります。
このことは、ロジャーズの時代には意識されませんでしたが、現代の「動機づけ面接」では方向性を意識しながら何を聞き返すかにも配慮します。
◯ロジャーズが薦める要約スキル
傾聴・MIの基本スキルである要約は、カウンセリングの現場はもちろん、日常生活でも非常に役に立ちます。
これは相手の立場に立ってみると、よくわかります。自分の考えや気持ちを正解に理解し、伝え返してもらって嫌な気になる人はいませんからね。
カール・ロジャーズは、主著 On Becoming a Person(邦訳『ロジャーズが語る自己実現の道』)の中で、読者に対して「あなたが奥さんや友だち、あるいは何人かの友人たちと議論になった時」に、賛成や反対や評価を慌てて提示するのではなく、「相手の考えや感情を要約できるぐらいまでよく理解すること」をルールとすることを提案しています。
ロジャーズがこの提案を最初に行ったのは1951年、ロシア(ソ連)と米国の、核開発も含めた緊張状態が深刻な問題となった時代でした。しかし、これは決して過去の話ではなく、現代の日常生活から、国家間の対立まで幅広く当てはまる問題でしょう。
相手を理解するスキルとしての「聞き返し」、その聞き返しの1つ(大きい聞き返し)である「要約」。
皆さんも、日常生活の中で、ロジャーズが提案した「理解を確認する」練習をやってみませんか。
身近な人とのコミュニケーションの質がきっと向上するはずです。
(今後の関連イベント)
カール・ロジャーズ、傾聴関連のイベント、ワークショップも開催していますので、ご興味ある方はぜひどうぞ。
・8/20(土)15時/20時 HFCイベント「受容・共感・自己一致」
・「OARSで学ぶ傾聴教室」:毎月第1・3火曜 20:30~21:45