自分で誰かの靴を履いてみる〜エンパシー(共感する力)をもつこと
エンパシーとは何か? 「自分で誰かの靴を履いてみる」こと
英語の定型表現で「自分で誰かの靴を履いてみること」という言い回しがあるそうです(Stand in someone’s shoes/ Put yourself in someone’s shoes)。「他人の立場に立ってみる」「相手の視点から眺めてみる」「相手が感じるように自分も感じてみる」というような意味だとか。
イギリスでの思春期の子育てについて書いた話題の本『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ著/新潮社)にこの表現が登場していました。
学校で「エンパシーとは何か」という問題がでて、その回答として「自分で誰かの靴を履いてみること=他人の立場に立ってみること」と書いたという話でした。
「自分で誰かの靴を履いてみること」って、面白い表現だと思いませんか。
「エンパシー」(empathy)は日本語では「共感」と訳されます。でも日常語の「共感」とは少し違った意味があります。
これが分かると、子育てにも日常のコミュニケーションにも大いに助けになります。
「エンパシー」と「シンパシー」の違いは?
「エンパシー」(共感)と「シンパシー」(同情・同感)は、緩く考えれば似たような意味ですが、心理やカウンセリングの現場では明確に使い分けられます。
「シンパシー」は、困っている人を可哀想に思うこと、同情すること。
それに対して「エンパシー」は相手の立場に立って、その人が今どんな風に感じて困っているのか、あたかもその人自身であるかのように体験する能力のことです。
「シンパシー」と「エンパシー」の違いが掴めてきましたか。
カウンセリングにおける「エンパシー」(共感)
最近、20世紀の代表的なセラピストであるカール・ロジャーズのセッション記録を読んで驚きました。
小さな本ですが、ただ読むだけでなく、ロジャーズがクライエントに対してどんな応答をしていたかを、質問はQ、情報提供はGI(Giving Information)、聞き返しは SR(単純な聞き返し Simple Reflection)とCR(複雑な聞き返し Complecated Reflection)など、記号で分類しながら読んでみました。
すると、彼の応答はほとんどが CR, CR, CR, CR, CR, CR, …になったのです。
ここでの CR= Complicated Reflection(複雑な聞き返し)は、クライエントの発言に対して、それを別の言葉で言い換えたり、より深めたりしながら、その人の内面的な世界を確かめる応答です。
カウンセリングにもいろいろなスタイルがありますが、これは非常に特徴的な、ある意味究極の面接スタイルだとも言えるかもしれません。
彼が行っているのは、まさに「エンパシー」(共感)の実践だといえます。
ロジャーズはカウンセリングにおいて、クライエントが行動変容するためには5つの条件があると言っています。その1つが、クライエントの内的な視点に立って考えたり感じたりする「共感」(共感的理解)なのです。
(関連記事)傾聴とロジャーズ(4)ロジャーズが語る傾聴の方法〜5つの条件とは?
「エンパシー」は日常のコミュニケーションで大切な能力
日常生活においても、「エンパシー」を意識することで、コミュニケーションの幅が広がります。
次の漫画を見てください。
お母さんは、子供を理解する前に警告したりアドバイスをしたり、子供の意図を決めつけたりしています。
ここに欠けているのは「エンパシー」(共感)です。
もちろん、アドバイスをすること自体がわるいわけではありませんが、「相手の立場に立ってみる」エンパシーを意識することで、ベースとなる信頼関係を作ることができます。
(関連記事)トーマス・ゴードンによる〜傾聴にならない12の障害物
エンパシーの練習:OARS(オールズ)傾聴教室
エンパシーを身につけるにはどうするか?
エンパシーの能力は人によって異なり、特別な訓練をしなくても共感力の高い人はいます。(あなたの周りにもきっといるはず!)
一方、嬉しいことに、エンパシーは楽器の演奏やスポーツと同じように練習で向上させることができます。
ご興味ある方は「ハートのフィットネスクラブ」が開催している「OARSで学ぶ傾聴教室」(Youtube動画/オンラインワークショップ)のページもご覧ください。
いま、医療や教育分野で世界的に普及してきている「動機づけ面接」をベースにした傾聴を気軽に学ぶことができます。
このページの執筆者
藤本祥和:REBT心理士/動機づけ面接トレーナー(国際トレーナーネットワークMINTメンバー)/ハートのフィットネスクラブ主宰