REBTで行動から変えてみる! シェイムアタックと非完璧主義のススメ
REBTで行動から変えてみる! シェイムアタックと非完璧主義のススメ
○シェイムアタッキング・エクササイズとは?(私の場合)
REBT(アールイービーティー、論理療法)には Shame-attacking exercise(羞恥心粉砕法)というアプローチがあります。人前でわざと恥ずかしい行動をすることで、「恥ずかしい」「他人の反応が不安」「○○したくてもできない」という感情を克服する訓練です。
この心理療法的な訓練では、「恥ずかしい」「不安になる」という理由でその人が避けている行動を取り上げる。
アルバートによると、人はしばしば周囲からの拒絶的な反応を怖れるあまりに、自らの行動を抑制してしまう。だからこそ、それを乗り越えるシェイムアタックの訓練が有効なのだという。
○ランドセル姿で東京の街を歩く
僕はこのアプローチに興味があって、あるとき、当時小学生だった息子のランドセルを背負って東京の街を歩いてみました。
最初はドキドキしますが、いざやってみると・・・意外と反応なし。ランドセル姿のおっさんが歩いていても、あからさまに驚いたり声を出したりする人はいません。
自分でも、街で人に声をかけたりすることと比べると、ずっとラクでした。
ランドセル姿がちょっとしたファッションにも思えてきます。
ただ、小学生のように横断歩道を手を上げて渡るときには、人目が気になって少し勇気がいりました。
そう。「やってみると意外と大したことない」と実感することがShame-attacking exerciseの目的なのです。
(関連記事)ランドセル姿で街を歩いてみた~Shame-attacking exercise(羞恥心粉砕法)
○熱愛中のカップルに写真を撮ってもらう
ある日、代々木公園を歩いていると、池のほとりのベンチで、二十代ぐらいのカップルが抱き合い、二人だけの世界をつくっていました。
そうだ。熱愛中のカップルにあえて声をかけてみるとどうなるだろう?
抱き合っているカップルに声を掛けてみました。
なかなかの美男美女カップルで、どちらもモテそうな感じ。
「すみませーん! 写真1枚撮ってもらってもいいですか?」
イケメン彼氏は、一瞬おどろいた表情。
でも、ほとんどためらいなく「いいですよ!」と神対応。
やや不満げな表情の彼女をベンチに残し、私の写真を撮ってくれました。
ところが、これ1枚で終わりではありませんでした。
僕が礼を言ってカメラを受け取ろうとすると、「ちょっと待って下さい」と彼氏。
「もうすぐ後ろの噴水が高く上がりますから、それを待ちましょう!」と逆提案。
数秒ほどして噴水が高くなったところで、キメの1枚を撮ってくれました。
熱愛中のカップルに声を掛けてみても、たいして怖ろしいことは起こりません。いい経験になりました。
(関連記事)熱愛中のカップルに写真を撮ってもらう~Shame Attack Exercise(羞恥心粉砕法)
○日常のなかで実験してみる
左右別々の靴を履いたり、時計を2つつけたりしていると、驚く人がいます。でもだからといって、それ以上大したことは起こりません。
最近では、英語の歌をうたったり英文の暗唱をしながら街を歩くことが多いです。近くの人が振り返ることもありますが、気にしない。英語も上達して一石二鳥!
※とはいえ、これは場と状況をわきまえてやりましょう。私も仕事で人と会うときなど「この状況ではまずい」というときはやりません。ご注意を。
○「100人ナンパして分かったこと」 アルバート・エリス博士のエピソード
シェイムアタッキング・エクササイズの重要なメッセージは「行動から自分を変える」です。
対人不安や社会不安、失敗への恐れがあるとき、あれこれ考えていても物事は進んでいきません。「まず行動から変える」と覚悟して、自分が怖れていることをあえてやってみる。
いざやってみれば、失敗もあるかもしれませんが、たとえ失敗したところで、人生の終わりではありません。思っていたほど大したことはない、と実感することができます。
この「行動から自分を変える」方法については、REBTの創始者アルバート・エリス博士の若い頃の有名なエピソードがあります。
アルバートはニューヨークに住む読書好きの少年。彼が住むブロンクスという地域に大きな植物園があって、そこで毎日哲学や心理学の読書をするのが好きでした。
だけど、アルバートには苦手にしていたことがありました。それは、見知らぬ女性と話をすること。「女性と話したい」という願望はあるのに、決して自分から話しかけることはできませんでした。
そこで、彼はある宿題を自分に課すことにしました。
それは、「植物園のベンチにひとりで座っている女性を見たら、必ず話しかけてデートに誘う」こと。例外も言い訳もなしで。
「女性に話しかける」のは彼にとってとんでもなく苦痛で不快な挑戦でした。でも彼は何とかやり遂げました。1か月で100人の女性に声を掛けることを。
その結果は…
100人に声をかけて、99人にその場で断られました。たったひとりだけ、デートをOKしてくれた女性がいましたが、その女性も、約束の場所に現れませんでした。
つまり、彼は見事に全敗したわけです。
ところが、自ら課した宿題をやり遂げてみて彼は思いました。
「怖ろしいことはなにも起こらなかった」と。
女性たちはデートの誘いを断ったけれど、だからといって、アルバートを罵ったり、走って逃げたり、叫んだり、警察を呼んだり…ということはありませんでした。
一方、彼は女性と話すことへの恐怖を克服でき、どんな女の人とも気楽に話せるようになった。
そして19歳の彼は、こう結論づけました。
「僕はデートの誘いに失敗した。それでも人生を楽しめる!」と。
…いかがでしょうか。
ここでアルバート少年が試したのは、「行動から自分を変える」という方法です。彼は、当時の行動療法の本を読み自ら実験して、効果を確信したのです。
ちなみに、自分を変える方法は、大きく3つあります。
- 思考(認知)から変える
- 感情から変える
- 行動から変える
ここで紹介したのは「行動から変える」方法です。
でも変わったのは行動だけではありません。それに伴って「思考」も変わったのです。
「見知らぬ女性に話しかけるのは怖ろしい」「デートに誘って断られたらみじめだ。もうやっていけない」という考えから…「デートを断られるのは残念。でもそれは最悪のことでも世界の終わりでもない。僕は人生を楽しめる」
という考えに変わったのです。このような体験も踏まえて、エリス博士は後に、行動から対人不安を克服する方法としてシェイムアタッキング・エクササイズを提唱しました。
(関連記事)15歳の君にも分かる~失敗への取り組み方:REBT入門(2)「100人ナンパして分かったこと」
○アルバート・エリス博士の講演〜非完璧主義のススメ
シェイム・アタッキング・エクササイズについて、エリス博士が言及している講演を最後に紹介します。1992年の講演です。
「完璧な『非完璧主義者』でいる方法」(”How to be a perfect non perfectionist”)
○完璧主義はデメリットだらけ
この講演でエリス博士は要するに「完璧主義はダメだ」と言っています。
完璧主義には、一時的にモチベーションアップさせるような利点もあるけれど、デメリットの方がはるかに多くあります。
完璧主義であろうとすると、いつも不安に苛まれたり、上手く行かなかった時に落ち込んだり、怒りに駆られたりします。
さらに、「今はまだ無理だけど、明日こそはやろう」と行動を先延ばしにしがちなのでも、完璧主義に多く見られる特徴です。
テストで1回100点取ることはあるかもしれない。でも毎回100点なんてありえないんだから、完璧主義はデメリットが多いというのが、この講演におけるエリス博士の基本的なスタンスです。
○完璧主義には「ねばならぬ」(MUST)が潜んでいる
完璧主義には「~でなければならぬ」(MUST)が潜んでいると、エリス博士は指摘します。この「ねばならぬ」には3種類あります。「自分に対して」「相手に対して」「世界に対して」の3種類。
- 自分に対して(例:私は絶対に成功しなければならない)
- 相手に対して(例:あなたは私を愛さなければならない。みんなを公平に扱わなければならない)
- 世界に対して(例:この世界はもっと楽で、私の思い通りにならなければならない)
そしてもちろん、この「ねばならぬ」のとおりにものごとが進むはずもなく、完璧主義者はいつも感情や行動の問題を抱えがちになるのです。
○非完璧主義者であるための3つの方法
だからこそ、問題の多い「完璧主義者」ではなく、自分が不完全であることを素直に受け入れる「非完璧主義者」であることをエリス博士は薦めます。そしてそのための方法を3つ紹介します。
1.無条件の自己受容(strongly accepting yourself unconditionally)
「…が上手くいったからOK」「上手く行かなかったからダメ」ではなくて、ただ無条件に「私はOK」と自分の価値を受け入れること。
ものごとは上手くいくときもあれば、いかないときもあります。でもそのものごとの成功不成功と自分の価値はまったく切り離して、自分を100%受け入れるようにすること。欠点だらけの自分でも、そのまま受けれてあげること、ともいえますね。
2. 起こりうる最悪の事態をイメージすること (imagine the worst thing that can happen)
「上手くいく状況をイメージする」トレーニングもありますが、ここで博士が紹介するのは、まったく逆。最悪の事態や失敗を予めイメージする方法です。
たとえば、人にものを頼むとき「断られたらどうしよう」「相手が不機嫌になったらどうしよう」と不安になることがありますよね。
そういうときは予め、「相手に断られる」「相手が不機嫌になる」ような最悪の事態をイメージしておくことにより、失敗を怖れるキモチがなくなり、余裕をもって行動することができます。
(関連記事)トラブルだらけでもパニックをふせぐ方法~「クリティカルA」
3.シェイム・アタッキング・エクササイズ(Shame Attacking Exercise)
そして3番めが、街なかでわざと恥ずかしい行動をすることで「…でなければならない」という思い込みから自由になる訓練「シェイムアタッキング・エクササイズ」です。エリス博士が1968年に発案しました。
たとえば、「地下鉄の駅に着くたびに大きな声で駅名を唱える」「混雑した薬局で大量のコンドームを注文し、しかも値引きをもちかける」ようなことがあります。
もちろん、警察に捕まったり、職を失ったりしない程度に試すという条件付きですが。
僕の場合だと、「行動して失敗してはならない」「人に断られてはならない」(それは怖ろしくて、恥ずかしいことだ)という思い込みを克服する観点から、シェイムアタッキングに興味を持っているというわけです。
○まとめ〜行動から自分を変える
ここまでシェイムアタッキング・エクササイズについての記事をざっくりとまとめて、最後に、エリス博士の講演を紹介してみました。いかがでしたでしょうか。
私たちは「~でなければならない」という一種の完璧主義に縛られて、感情を掻き乱されたり、行動に踏み切れなかったりすることがあります。
そうではなくて、失敗するのが当然の自分を素直に受け入れたほうが、より人生を楽しめるようになり、また、自分がやりたいことに向かって行動を起こすことができるようになります。
「行動から自分を変える」シェイムアタッキングの方法を、ぜひ参考にしてみてください。